花骨牌 | ナノ


許せなかった。
彼女の態度は、見るからに仲間を軽視していた。
サスケくんは幼馴染みで、木の葉の仲間じゃないんですか。

ガイ先生に連れられ病室のベッドに横になる。
けれど頭は休まることなどなく、もやもやと気持ちの悪い雲が渦巻いていた。

「どうした、リーよ」

「ガイ先生」

眉間に皺を寄せ、難しい顔をする僕にガイ先生が声をかける。
何かあったなら遠慮なく話していいという先生の言葉に、僕は零れそうになっていた思いをぶつけた。

彼女のことが分からないと。
何故、仲間を見捨てるのかと。
それは忍として正しい姿なのかと。
次々と溢れ出る疑問。
どう考えても、僕1人では到底彼女の心境を理解出来そうになかった。

「紅葉はな、ああ見えて熱い奴なんだ」

「そうでしょうか。僕には冷たい人に見えました」

全てを話終え、ガイ先生から告げられた言葉に首を傾げる。
納得がいかないと憮然とする僕を見て、ガイ先生は豪快に笑った。

「何時も笑っていて、何を考えているか分からない時があるからな。そう見える、かもしれん」

そう言われ、彼女を思い返す。
確かに、ずっと笑顔だった。
あの時はカッと僕ばかりが熱くなって、彼女のその表情にすら腹を立てた。
仲間が大変な時に、何故笑っていられるのかと。

「さて、何処まで話していいものか」

ぽりぽりと頭をかき、渋るガイ先生に続きを促す。
理解できるとは思えないけれど、それでもガイ先生がそこまで言うのなら、彼女にも何かし ら意図があったのかもしれない。

それを、知りたかった。




「そんなことが」

「だからな、あまり彼女を悪く言わんでやってくれ」

きっと紅葉が一番辛いだろうから。
そう告げられた言葉に、無意識に頷く。
巡るのはガイ先生から告げられたうちは一族と彼女の話。

彼女はサスケくんの兄、今は里抜けしたイタチさんの幼馴染みでもあったこと。
イタチさんが里抜けした当時は、酷く落ち込んでいたらしい。
信頼していた仲間に裏切られたことが、相当響いたのではないかとガイ先生は言っていた。

それからというもの、彼女は少しずつ変わっていった。
里に異様に固執し始め、裏切り者を決して許さなかったという。
絶対的信頼を置いていた仲間の裏切りが 、彼女を変えてしまったのだと。

想像すら出来なかった。
例えば、例えば僕が信頼するガイ先生が里の仲間を殺して里抜けしたとしたら。
そんなもの、あり得なさすぎて、言葉さえ出てこない。

そんな過去があるだなんて知らなかった。
そんな過去を経てもああして笑っていられるなんて、信じられなかった。
だから彼女は、サスケくんに対してあんな。

かちりと歯車が噛み合う音がした。
けれど、それでも。

「それでも、サスケくんは里の仲間ではないんですか」

「リーよ」

分かるけど分からない。
分かっちゃいけない。
俯く僕の肩にそっと大きな手が乗った。


「ネジに怪我を負わせたサスケくんを、お前は許せるか」

試すように問われた言葉に、頭が 真っ白になる。

酷い状態で、生きているのもやっとだったと、そうきいた。

どんな状況だったのか、直接見ていないからわからない。

もしこれでネジが死んでいたら。

もしこれでネジが忍としての道を絶たれていたら。
意味もなく不安な憶測が脳内を駆け巡り、ぼやぼやと思考が鈍っていく。

どう答えるべきか、僕には分からなかった。





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