花骨牌 | ナノ

にあることを願う


「さて、お待たせしました」

木の葉の里、忍御用達の何処にでもある小ぢんまりとした宿屋。
その屋根の上にトンと軽い音を響かせてやってきた弟子に視線を寄越した。
砂の3人を此処へ送る道中に向けていた視線を感じ取っていたのだろう。
待たせた等、思ってもいない台詞を吐く紅葉に溜め息が漏れる。
こんなひねくれ者に育てた覚えはないんだがのぉ。
否、コヤツは出会う前からこんな性格だったか。

「私に御用ですか、自来也さん」

「弟子が全く顔を見せてくれんからの」

「会いに来て欲しいと思うなら、木の葉に留まる事をお勧めしますよ」


馬鹿言え。
それでは大蛇丸はどうなる。
暁は。
ナルトは。
集めても 足りない情報を必死こいて探している師匠に向かって。
本当に、コイツは。

「3年」

「・・・」

「少なくとも、後3年は安全です」

肩を落とした儂を嬉しそうな顔をして眺めてから、ふいにそんな言葉を発した。
すっと空気が変わるのが分かる。
突然何を。
そう言おうとして止めた。

紅葉は気付いている。
何故儂が紅葉を尋ねたのか。
その答えを、空気を吐く様に告げてきたのだ。

「私の口寄せが集めて来た情報です。まず間違いありません」

それが知りたかったのでしょう。
そう言われているような感覚に陥りそうになる。
紅葉の情報収集能力には目を見張るものがある。
そしてそれは敵に限らず、仲間にも適応される。
儂がどう行動していて、何を探 し求めているかなど、とっくに掴んでいたのだろう。
その聡明さと、尋ねに来るまで口を割らないその意地の悪さに、乾いた笑いを零した。

「暁には」

「いますね、うちはイタチが」

ちょっとした意趣返しのつもりでイタチの名を上げる。
別にコイツの困る姿が見たいだとか、そんなつもりではなく、純粋に聞いてみたかった。

「まだ彼奴のこと」

そこまで喋って、視界の端で紅葉が頭を振る姿を捕らえた。

「彼は里を危険に晒した」

もう、彼は私の敵です。
囁くように、けれどハッキリと伝わってくる意志。
無意識に抱いていた不安が、さっと引いていく感覚に安堵する。


どうか、彼や大蛇丸の様にならんでくれ。
喉元まで出かかるこの言葉を、幾度押しとどめたこ とだろう。

1人殻に閉じこもる姿に、
そこから救い出してやれん自分に、
幾度思い悩んだことだろう。

儂は紅葉の言葉を信じる。
それしか、してやれん。

「大丈夫ですよ」

呟いた後、ただ見つめるだけの儂に対して向けられた笑みを見て、一層苦しくなった。


それは何に大しての言葉か。
自分は里の敵にならないから安心しろという意味なのか。
それとも暁はまだ動かないから、安心してナルトを連れて行けという意味なのか。

それとも。

「そうか」

「はい」

出て来たのはそっけない言葉。
結局、何も問いただすことも出来ず、儂は何時もこうして流される。
築いてきた距離感を今更変えることが、こうも難しいなど。

「さぁて、ナルトの見舞 いに行くとするかの」

思考を中断するようにパシリと膝と叩き立ち上がる。
へにゃりと緩い笑みを浮かべたままの弟子に軽く手を上げ、屋根から飛び降りた。

考えるのは弟子のこと。
よく笑う2人が、こうも違う性格をしていることに、忍び笑いをした。

出来る事なら、この先起こりうる未来、2人の弟子が側にあることを願う。





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