花骨牌 | ナノ

ての俺と


やはり、彼女は俺に似ている。
そう思った直感は、間違いではなかったのだ。
穏やかな笑みの彼女を見つめ、そんな確信めいた思いを抱いた。



「と、そういうことなので、この先は彼等について行ってください」

彼女の後ろには木の葉の忍と思われる男が2人。
傲慢そうな態度を崩すことなくそこに立っていた。

事の起こりはつい先程。
途中でカンクロウと合流し、宿屋へと足を進めていた時。
前方からやってきたこの男達が、案内を引き継ぐと申し出たのだ。

一件唯の業務連絡のように行われる目の前のやり取りを観察しながら思った。
やはり、彼女は似ていると。

何時も穏やかに笑っていて、チヨバア様や砂の忍からの嫌 味にも動揺しない強い彼女だったから、
彼女が木の葉の里でどんな扱いを受けているかなど、想像もしてなかったのだ。


お前じゃ監視にも何にもならないだろうよ。

先程聞こえてきた男の言葉が今も頭を巡っている。
砂の忍を前にして監視だと不用意に発言する低脳さと、1度裏切ったとはいえ今は援軍としてやってきている者に対する態度ではない彼等に呆れを抱く。

それと同時に、彼女の忍としての立ち位置が、思った以上に低い位置にあることを知った。
とてもそうは思えないが、彼等の態度は明らかに彼女を馬鹿にしていた。
木の葉崩しの際に俺達3人をあっという間に拘束し、警戒体制の砂の里に単身乗り込んで来れる様な忍が、何故。
不当ともいえる評価の低さに眉を寄 せた。
この男達が彼女よりも出来るとは到底思えないし、何よりも人を見下すその態度が気に食わない。

彼女の方が、余程忍らしい。


ジロリ。

彼女の後背にいる男2人をねめつける。
すると案の定、人柱力である俺の態度に動揺したのか、
殺気立った視線に身構えたのかは知らないが、
男2人はピクリとその肩を動かした。

ふん、口程にもない。


「我愛羅くん、里内での喧嘩はやめてね」

不穏な空気を感じたのか、視界に入り込んできた彼女は何時も通り、穏やかな笑みを浮かべていた。
ほんの少しだけ、困ったように眉を下げて笑う姿に、すっと眉間に刻んだシワが取れていく。
興を削がれてしまった。

「それじゃぁ、案内お願いします」

大人しくなっ た俺を確認すると、彼女はくるりと視線を男達に向けた。
傲岸不遜に頷く彼等。
へりくだる訳でも、萎縮する訳でもなく、この状態が自然だとでも言うような態度の彼女。
引いたはずの皺が、再び寄っていく。

「必要ない」

「我愛羅?」

「宿屋への案内は彼女に頼む。お前達に用はない」

途中、テマリが声を掛けたのが分かった。
けれど其れに答えようとする意識よりも先に、口が本能に従った。
久しく成りを潜めていた独り善がりの俺が、彼女を馬鹿にする男共に怒っていた。
そこでようやく、自分が自分で思っているよりもずっと虫の居所が悪かったことを知る。

「・・・っお前」

一瞬の逡巡の後に顔を赤くさせた男2人。
怒るのも当然だろう。
自分が馬鹿にされた のだから。

そう、怒るのが当然なんだ。

衝突しそうになった俺と男達の間に彼女が割って入った。
変わらない。
変わらない態度の彼女。

「彼、戦闘後なので少し気が立ってるのかもしれません」

やっぱり私が送って行きます。


彼女と男達の会話をどこか遠くで聞いていた。
やがて何かを吐き捨てるように呟いて去って行く男達。
彼女の笑顔は、まだそこに張り付いたまま。

「何故だ。何故怒らない」

無意識に呟いた。
何故、そうも笑っていられるのか、不思議でならなかった。

「それは誰にですか」

「あの木の葉の忍にだ」

手を顎に当て首を傾げる姿をじっと観察する。
本当に、怒っていないみたいだ。
考えなければならない程に、俺の質問は 可笑しなものだったのだろうか。

「怒る必要が無いから、ですかね」

暫くの沈黙の後に告げられた言葉に、憮然とした。
意味が分からないとさらに問いつめようとして、そこでようやく気付く。

「お前は」

「さ、宿屋へ案内します」

くるり、背を向けて歩き出した彼女を見つめる。
やっと、やっと分かった。
初めて彼女を見た時、何故自分と似てるなどと思ったのか。
その答えを、ようやく掴めた。
彼女は俺と似ている。
いくら笑顔で取り繕っても、誤摩化すことなど出来ない。

彼女の瞳は、俺とよく似ている。
嘗ての俺と。
仲間など存在せず、誰とも理解し合おうとしなかった俺と。
優しく笑っているのに、瞳の奥底が深く冷たい。
その凍てつく冷たさが 拒絶だったのだと、ようやく気付いた。


歩みを止めることのない彼女の背をただ見つめた。
1人で向かうその先に、何も無いことを、
ただ教えてやりたいと思った。





next