花骨牌 | ナノ

く似ている


ナルトくんの所へ向かわせた影分身の記憶が入り込んできた。
どうやらカカシさんが連れて帰るらしい。
大きな傷も無く帰ってくるであろうナルトくんを思って一つ息を吐いた。
ナルトくんは大丈夫だろう。


けれど、
サスケは。

サスケは、どうやら一緒じゃないみたいだ。
彼は、1人で生きると決めたらしい。
この、木の葉の里を抜けて。


深く息を吐く。
目を瞑れば、穏やかな暗闇が思考を浸食していく感覚に安堵した。
大丈夫。
まだ感傷に浸る時じゃない。
やることはたくさんあるのだから。

ふっと息を吐ききり目を開けば、目の前には大きな門。
戻ってきたのだ、木の葉隠れの里に。

「さて、リーくんは早く病院に戻って検査を受けてください」

「わかっています」

ツンとした態度の彼に思わず苦笑いを零す。
どうやら彼は私が気に喰わないらしい。
先程言った言葉が原因なのだろう。

仲間思いな彼のことだ。
きっとサスケを見捨てた薄情な奴に映ったに違いない。
結果そうなっているのだから申し開きもできないのだが。

「我愛羅くんはどうしますか」

会話が発展しないであろうリーくんを置いて、我愛羅くんにそう尋ねる。
返ってきたのはリーくんを病院に送るというもの。
模範的な優等生の回答を聞きながら、彼を横目で観察する。

果たしてこれが木の葉崩しを行った人柱力なのであろうかと。
随分と丸くなった雰囲気に、彼に対する訝しみと呆れが胸中を漂った。
随分と脆い信念だったことで。
殺すことで存在意義を見出すとか何とか言っていたらしいが、所詮は他里の子供1人に変えられる信念だったのだ。
生温い。
その甘さに少しの嫌悪すら抱きそうだった。



まぁ、木の葉に危害を加えるつもりが無いのなら、
その方が良い決まっているので特に口出しする気はないのだが。

「では私も一緒に行きましょう」

「結構です」

思考を切り、歩き出そうとする彼らに向かって言えば、ばっさりと提案を切り捨てられる。
自分に関係の無いことで良くそこまで怒れるものだ。

「断られても着いて行くけどね」

当然だ。
私の任務は彼の監視なのだから。


ニコリ。

意地の悪い笑みを浮かべ、リーくんを見つめた。
何故私が一緒に行くと言ったのか、大方の予想がついたらしい。
体術だけが取り柄の少年ではないらしい。
さっと顔色を変えた彼が面白くて、さらに笑みを深めた。



自分の足をそんなにした奴にも関 わらず、何故そこまで肩入れできるのか。
自分を助けてくれた相手だからか。
そもそも足がそんなんじゃなければ、
もっと違う戦い方だって出来ていたかもしれないのに。
彼は我愛羅くんにどんな感情を抱いているのか。
少なくとも敵だとは思っていないのだろう。


成る程。
その漢気溢れる広い心は確かにガイさんの弟子らしい。

「かまわない」

「それじゃぁ、行きましょうか」

何も言えなくなったリーくんに変わり淡々と答えた砂の人柱力に目を移す。
こうして監視されることに慣れているのだろう。
ちらりと私に一瞥を寄越すと大して気にした様子もなく歩きだした。

「待ってください」

歩きだしたところで正義感のある声に止められる。
大きく息を吐き、
理 解しきれないその人物の言葉に耳を傾けた。

「彼は僕を助けてくれました」

「そうだね。でも彼は木の葉を襲った」

「今は敵じゃありません」

強い意志の宿る瞳は、全く揺らぐことがない。
彼は敵ではないと、そう言い切る自信に目眩がした。



明日は、その先は。

何時誰が、自分の敵になるのか分からない。
何時裏切り者が出るのか分からない。
そんな世界を、彼は経験したことがないのだ。
そんな世界を、彼はきっと直視出来ないのだ。

何度目か分からない深いため息を吐く。
思考が安穏とした闇に覆い隠されたことを確認して、ゆるりと笑みを作る。


「リーくん、話は何時でも聞くから。まずは君の怪我の治療を先にしよう」


ぷつり

剣幕を 無理矢理断ち切るように彼を急かした。
まだ話しはあると言いたげにしていた彼も、
我愛羅くんに急かされ重たい足を頼りなさ気に動かし始める。

忍としての道を断たせるまでの大怪我を負わせた相手に、彼は何の躊躇いもなく肩を借りた。
その後ろ姿を見ながら、ゆっくりと彼等の歩調に合わせて足を進める。


彼と私ではモノの考え方が違い過ぎる。
里の門前ですべき争いではないと動き出したが、
例え場所を変えたとしても、
彼との話し合いに和解の文字を見出せないであろう。

彼の話しなど真に受けなければ良いものを。
彼の話しに適当な合図地を打てば良いものを。

彼の仲間思いで実直な性格に、つい昔の悪い癖が出てきたと苦笑した。
嗚呼、きっと目の前のこの少年は。


「よく似ている」





next