恐怖
サスケを奪還しに向かった。
待ち受ける敵は強敵で、俺達は1人、また1人と歩みを止めていった。
ナルトは今頃追いついているだろうか。
今はもう影すら見えなくなった仲間の顔が浮かぶ。
サスケを追う仲間が、既にナルトただ1人になっている事実に焦りを抱いた。
任務が遂行できるかどうかではない。
仲間の無事を案じて。
と、そう言う俺も、所謂人生二度目の危機に陥っているわけで、
どうにも仲間を助けに行ける程の余裕は無い。
くそっ。
何通り考えても、ろくな作戦が思いつかねぇ。
幻術使いの女の攻撃をぎりぎりで止めたはいいものの、圧倒的なチャクラ量の差から影首縛りの術が徐々に解かれていく。
するすると彼女の腕を解放していく影に、冷 や汗が垂れた。
もう限界だ、これ以上、
影が勢いよく後退し、敵の拘束を緩める。
それに合わせて動きだすクナイ。
もうダメだ。
そう思った時、
突風が相手の体を吹き飛ばした。
側にやってきた姿を見て、思わず目を見張る。
コイツは。
「裏切り者の砂と仲直りしたって話は聞いたが、こうも早く手のひらを返すとはなぁ」
砂隠れの里の忍、テマリ。
絶対絶命の危機を救ってくれた相手とはいえ、一度木の葉を裏切った連中が何故。
敵を前にして咄嗟に訪ねてしまう程度には疑問に感じた。
「私等だって好き好んで木の葉を襲撃したわけじゃない」
テマリのツンとした声が俺の思考を遮った。
相変わらず気の強そうな声色だ。
「命令だった」
ちら と俺に寄越した視線。
意思のはっきりとした声のわりに、その表情が酷く悲しげに映った。
それからの攻防は、本当に、あっという間という言葉が合いそうな程あっけなく終わった。
もともと敵はテマリとの相性が悪い。
攻守を一手で済ませられるうえ、その範囲が尋常じゃなく広い。
俺から言わせれば、中々に強引なやり方だった。
しかしまぁ、今回はお礼を言わなくちゃならねぇな。
助けられたことに変わりはない。
「そういえば」
「なんだ」
傍目に敵が伸してるのを確認して、思い出したように呟く。
砂の里っていえば、確か。
彼女がそっちにいるはずだ。
もし彼等の援軍に同行していたら。
「紅葉さんは」
「我愛羅と先に向かっている」
もしいるな ら、サスケを連れ戻せる可能性が高くなる。
そういうつもりで聞いた質問は、かぶせるように答えた声によって解決した。
テンポの速い回答に訝しんで視線を向けるが、見えるのは背中のみ。
俺の気のせいだったか。
「とにかく、アンタはもうお役ごめんだ。さっさと里に戻るよ」
「何言ってんだ、俺は」
「チャクラ切れおこしてフラフラな奴が何言ってんだ」
ほら、行くよ。
感じていた違和感が気のせいだったかのように、振り返った先にあった彼女の顔は何時も通り、気の強そうな表情のままだった。
答えを待つ事なく走りだした彼女を慌てて追う。
体力がないって分かってるなら、せめてもう少し遅く走ってくれりゃいいものを。
今後ろを向いてしまえば追いたくなっ てしまうであろう意識を、無理矢理に押し込める。
大丈夫。
サスケはナルトが追ってる。
我愛羅と、紅葉さんも、その後を追ってんだ。
彼女の背中を追いながら走れば、だんだんと里に近づいていく。
そこでようやく、俺自身が誤摩化し続けていた不安に行き当たる。
だから、あんなにもサスケを追うことに執着していたんだろうか。
この現実を受け止めるのが怖かったから。
俺と共にサスケを追った仲間は、皆怪我を負って傷ついていた。