花骨牌 | ナノ

み取れぬ瞳


俺と似ている。

なんて言葉をかけるつもりはない。

彼女には彼女なりの正義があって、特別里を嫌悪しているわけでも、誰かを殺して己を確立したいなどという願望も抱いていない。

端から見れば、何一つ似ているところなどないのかもしれない。

片や敵国に単身の乗り込めると里から信頼され、且つその実力を里の為に行使する忍。
片や自里から恐れられ信頼を得ているとは言い難い人柱力の忍。


何が似ている。
それを明確にするのは難しい。

しかし。
彼女の瞳を初めて見たあの時、確かに似ていると、そう感じたのだ。





「木の葉への援軍は、お前達三人で行け」

彼女、香坂紅葉が砂の里に来てから数日後。
他里の忍がいるという緊張感と、取り巻く様な護衛に息が詰まりそうだと感じていた昼下がりに、俺達はチヨバア様に呼び出された。
部屋へと赴けば、突然の任務を言い渡される。
内容は木の葉の忍の援 軍をしろというもの。
俺と本戦で戦ったあのうちはサスケが、里を抜けたらしい。


「この援軍要請は言わば木の葉への借りを返すチャンスじゃ」

淡々と述べていくチヨバア様が言うには、今回の要請を受ける目的は二つ。
一つは木の葉崩しでの借りを返すこと。
一つは砂の里に滞在する香坂紅葉を里から追い出すこと。
彼女が里に留まる理由は、偵察と観察。
観察対象の俺が行けば、きっと彼女も里を出るだろうという算段らしい。
確かに、彼女はここ数日よく俺を訪ねに来ていた。
多い護衛のせいで彼女と二人きりで話す機会は無かったが、きっと彼女なら俺達と共に里を出るだろう。




「よいか、香坂紅葉には気をつけよ」

幾度となく聞かされた言葉を呟くチヨバア様の瞳は、明ら かな敵意を滲ませていた。
一体、彼女の何を気をつけろというのか。
気をつけろと諭しはしても、決して理由を述べない上層部の者達。
テマリから聞いた話によると、彼女はかつて砂の里に住んでいたことがあるらしい。

きっと、その時に何かがあったのだ。
そう予測はついても、詳しいことは誰も語ろうとはしなかった。



「チヨバア様、彼女は一体・・・」

テマリの微かに震える声がものを発しきるのを遮るかの様に、ノック音が響いた。
閉ざされていた扉がゆっくりと開き、現れた人物に目を向ける。


そこにいたのは、渦中の人物であった。
俺達を視線に捕らえるとにっこりと愛想の良い笑みを浮かべて近づいてくる。
敵意の無い穏やか瞳が向けられていると錯 覚してしまう程に、彼女はゆるやかに笑っていた。


「援軍の話を引き受けてくださるようですね。感謝致します」

「ふんっ。自里の不始末を他里に頼るなど、木の葉も落ちたものよ」

「申し訳ありません。何せ色々とあったものですから」

嫌味を動じることなく受け流した彼女には何時も驚く。
チヨバア様の威圧も、四面楚歌という状態も、彼女には一切干渉していないかの様にまったく動じる気配がない。
ただ穏やかな笑みを浮かべ続けていた。


「それで、彼等が援軍に向かってくれるのですか」

「・・・そうじゃ」

「我愛羅くんにテマリさん、それにカンクロウくんですか」

頼りになるメンバーですね、よろしくお願いします。


俺達の目の前に立ち、そう告げる彼女。
テマリも、そしてカンクロウも気まずげにそれに答えた。

「・・・お前は」

「なんですか」



「いや、なんでもない」

「そうですか」

ふいに出かかった言葉を喉奥へと押しやる。
代わりに腕組みを外し、彼女へと手を差し出した。

「よろしく頼む」

真っすぐに見つめれば、一瞬、瞳が見開かれた。
次いで、先程と何一つ変わることのない笑みを俺に向け、そっと手を握り返してきた。



「こちらこそ、よろしくお願いします」

久しぶりに触れた他人の手は、穏やかで温かかった。
それと対比する様に向けられる瞳だけは、ずっと凍えて冷たいまま。
こんなにも穏やかに笑っているのに、瞳の奥底にあるのは俺と同じ、冷たく凍った何か。
敵意すらも読み取れない無が、ただただ俺を観察しているみたいだった。





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