花骨牌 | ナノ

て、どうしたものか


「さて、どうしたものか」

砂の里に滞在すること数日。

代参という役目など疾っくに済んでしまった私は、砂からの迷惑そうな視線をとんと無視し、何かと理由をつけては滞在日数を着々と延ばしていた。



理由は砂の偵察及び砂漠の我愛羅の監視。
今後木の葉の脅威に成り得るのか。
また、二度と裏切らせない為の牽制として、砂の不祥事を握ること。
もしくは力の弱っている木の葉へ、砂が再び侵攻してくることのない様に牽制すること。

それが私に課せられた任務だった。



しかしまぁ、この時期に裏切られた里の忍が裏切った里に来る理由なんて、誰でも簡単に想像できる訳で。
情報は厳重に秘せられ、監視対象の周りには護衛も とい彼の兄 弟達がへばりついていた。
やりにくいったらない。


コハル様からは「任務に必要な経費はその都度シカクを通せ」とのお達しまでいただいている。
つまりはあれだ。
何らかの情報を得るまでは里に戻ってくるなということらしい。
つくづく、彼女は私が嫌いのようだ。
否、信用ならないらしい。


まぁ、コハル様から信用を得ていようといまいとどうでもいいが、問題はこの先にある。
長期間の滞在が、私にとってあまり喜ばしいことではない、ということだ。

私は砂の里を信用していない。
当然であろう。
ついこの間、同盟を破ったばかりの里を誰が信用できようか。
私でなくても、この任務を受けた者ならきっと誰もが里内での敵襲に備えることだろう。


それは、任務を依頼したコハル様とて同じこと。
とどのつまり私は、ちょうど良い捨て駒として扱われているのだ。
情報収集に長けた私を向かわせ、何か得られれば良し。
もし私が殺されたとしても、コハル様からしてみれば怪しい不安要素が一つ消え、
同時に砂の里に対して絶対的優位な立場に立つことが出来る。
一歩間違えば、正当な理由を持って戦を仕掛ける引き金にすることすら可能なのだ。
それだけは必ず避けなければならない。
だからこそ、私は何時如何なる時も警戒し動いている。
それこそ寝る時まで。

しかし、長い間ずっとこの緊張を保つことは出来ないし、
直ぐに限界が来るであろうことは確かであった。
早いとこ情報を集めて里に帰らなければ。


「 はぁ」

呆れを含んだため息が思わず漏れ出た。
本当に、木の葉の里は。


どうしたものかと、視線を下へ向ける。
そこには新たな問題の種が書かれた書状。
つい先程、木の葉からやってきた伝書鳩が無責任にも置いていったものだ。
内容はうちはサスケの里抜けと、それに際しての援軍要請。


そうか。

遂にサスケが。


予期はしていたが、まさかこのタイミングとは。
否、このタイミングだったからこそ、サスケは里を抜けられたのかもしれないな。
やっぱり、サスケは甘い。
呆れと可愛さが同時にこみ上げる。

さて、私は一体どうすればよいだろうか。
紙面に書かれた内容を見つめながら、木の葉の影とその相談役の顔を思い浮かべた。


これはコハル様 からではなく綱手様から届いた書状。
綱手様はこの援軍を砂が受けた場合、木の葉崩しの一件を不問に処すつもりなのであろう。
であれば、私が滞在し続ける理由も無くなり里へと帰れる。
綱手様からの書状にも、援軍と同行の後、木の葉へ帰還せよと書いてある。
火影様の命令は絶対だ。
ならばそれに従うのがベストだろう。
しかしコハル様はそれで許すだろうか。


私は、それを許せるだろうか。
一度裏切った者を、許せるのだろうか。
里にまた被害を及ぼさないとは言い切れない。

そんな者達を、私は許せるだろうか。



「無理でしょ」

深く溜め息を吐いてから深呼吸をして気持ちを切り替える。
とにもかくにも、似たような書状が既に砂の里上層部にも届いているはずだ。
彼等は間違いなく援軍要請を受けるだろう。


木の葉同盟国として。

まったく、なんて都合の良い奴らなのだろう。

砂も、木の葉も。




コンコンッ

まるでタイミングを見計らったかのように戸を叩く音が鳴った。
世話役とは名ばかりの監視役が、私を外へと呼び立てた。
どうやら砂での話し合いは終わったらしい。
ゆるりと笑顔を作り、隙間風を遠慮無く通しているであろう年期の入った扉を開けた。
同時に漏れでた溜め息は、果たして何に対するものだったのか。


砂にか、それとも木の葉にか。


それとも。

連れ出された先にいたチヨバア様、そして見慣れた三人組を確認して目元を緩める。
どうやら、私がとるべき行動が決まったらしい。
ゆ ったりと歩く中で向けられる視線の鋭さに、妙な安堵を覚えた。





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