花骨牌 | ナノ

の葉の使者


砂の里は廃れつつあった。
木の葉崩しが失敗に終わっただけでなく、風影が既に亡くなっていたことまでが発覚した。
頭を失い統率が乱れただけでなく、自里の長が入れ替わっていたことにすら気づかない里だと、広く他里に知れ渡ったのだ。

責任を追われ消えていく忍と同様に、砂にくる任務の量も減っていった。


このままでは、砂は落ちる。


漠然とした不安を誰もが抱え、里の雰囲気すらも落ち込みつつあった。
直ぐにどうこうなる訳ではないが、このままいけばいずれ、そうなってしまうだろう。
誰もが予想できそうな結末にゾッとした。

しかし、決して悪いことだけでは無かったのも事実だ。
落ち行く砂をかき集める様に、己の仕出かした失態を全力で取り戻そうと している弟を見つめ、そう確信していた。
里に戻ってからの数週間、我愛羅はチヨバア様の手助けを借りながらも、里の為に働いていた。

誰もを突き放すような凍てついた瞳も、他者を殺して自己を見出すといった自己防衛的な歪んだ考え方も、随分となりを潜めていた。
完全に消えた訳ではないが、それでも、私は前の我愛羅よりもずっと好ましいと、そう思っている。

今迄のことを許せる訳でもないし、我愛羅に対する絶対的恐怖が消えた訳でもないが、やはり身内の贔屓目でも有るのだろうか。
彼の近くに居たからこそ感じる、今現在の彼の直向きさに心撃たれるものがあった。


これから少しずつでもいい。
変わっていけたら。


それは我愛羅だけじゃない、私も含めた里の人間 全てが、少しずつ変わっていければ。
そう思える程に、今回の里の落ち度は我愛羅にとって必要なものであったと感じた。



「チヨバア様、木の葉より使者が参っております」

恙無く進んでいた会議に、木の葉の到着を知らせる声が響いた。
風影が不在の今、この場を取り仕切るチヨバア様に掛けられたその声に、周りは彼女の発言を待つ。

火の国木の葉隠れの里。
つい先日、結ばれた同盟を反故にしてまで襲った里の名だ。



結果は失敗。
しかし風影を暗殺したのは木の葉の抜け忍、大蛇丸。
木の葉を襲った我愛羅は暴走、大蛇丸は既に木の葉内でも手配されている犯罪者だった為、双方不問として事件は表上解決されている。

その木の葉から、使者がやってくる。
事前に通達されてあり、この訪問も亡くなった風影へ、相談役の代わりに代参の者が来るのだと聞かされている。

実のところそれはオマケの用事で、実際は砂の里の偵察及び我愛羅の監視が目的だろう。
向こうで問題を起こしたのは既に里抜けした忍、一方こちらは里単位での反故であり、甚大な被害を及ぼした我愛羅は列記とした砂の忍だ。
例え相手の真意が見え透いていようと、ましては代参などと言われて は、木の 葉からの使者を断 れるはずもなかった。


「通せ」

チヨバア様の淡々とした声が響く。
それを受けた忍は黙したまま頷き、固く閉ざされていた扉に手を掛けた。
時を置かずして開かれた扉に視線を向け、大人びた仕草をした和かに笑う女性を視界にとらえ、思わず目を見張る。



「木の葉隠れの里相談役、うたたねコハル様の代参として参りました。香坂紅葉と申します」


無意識に呑む唾の音が、やたら大きく響いた。

よりにもよって、何故彼女が。

急速に不安が膨らんでいく。

初めて会った時のような、人好きのする笑みを湛えた彼女と、視線が交差した気がした。





next