花骨牌 | ナノ

弟弟子


珍しい組み合わせを見つけた。
ラーメン一楽の前、少し早い夕飯でも一緒に食ったのだろうか。
えらく楽しそうな二人の姿がそこにはあった。

「よぉ、ナルト。お前、紅葉さんと知り合いだったのか」


ポッケに手を突っ込んだままノロノロと声をかける。
俺に気づいたナルトは相変わらず煩い。
欲しい答えをくれずに、何故いるのかと逆に質問をしてくるナルト。
声をかける相手を間違えたかもしんね。
ちょっとだけ紅葉さんに声をかけることを憚った自分に後悔する。


「うっせ。少しは落ち着いて喋れよ」

はぁ。
と大きなため息をして耳に手を当てれば、隣でクスリと笑う紅葉さんが視界に入った。


「ナルトくんとは姉弟関係でね」< b>「そう そう! ねーちゃんが、アレだ!えーっと」

「姉弟子ね」

「それだってば。それで、オレが弟弟子なんだってばよ」

「・・・は?」


余りの情報に驚いた。
聞けば知り合ったのは先程で、親睦を深めるだかで一楽にいたらしい。

つーか。
ぶっこむな、オイ。


まさにそんな心境だった。
俺の唯一の同僚は、アカデミーで落ちこぼれであったナルトの姉弟子だったとか。
しかも伝説の三忍の1人が師匠ときた。
あまりにてんこ盛りな情報に、驚きはしたもののイマイチ現実味がわかなかった。
兎に角、この二人に接点があっただなんて。
それにまず驚いたのだ。


まぁ、思えば紅葉さんはサスケの幼馴染だっていうし、サスケはナルトと同じ班だしな。
別に不思議じゃないんだよな。
第一同じ里で同じ忍なんだし、紅葉さん顔広いし。
ナルト以外にも紅葉さんと知り合いはいるのかも知れねぇんだよな。
この間はたまたま、イノもチョウジも知り合いじゃなかったんだよな。


「どうしたんだってば、急に黙って」

「あ?」

思考に落ちていたのか、ナルトから奇妙な顔をされた。
思考を振り払う様に頭を傾け、肩を伸ばす。
なんでもねーよと渋い顔で答えれば、相変わらず変な奴だと言われた。
お前ほどじゃねぇよ。
そんな意味を込めて視線をナルトに向けるものの、それが伝わったかどうかは酷く怪しかった。

いや、伝わっていないんだろう。
多分。



「あ、そういえば」

俺らのやり取りを静かに見ていた紅葉さんが、何を思い出しのか、突然声を上 げた。
視線を振れば、親父はもう帰ってきてるか、と聞かれる。

「まぁ、もう帰ってると思いますけど」

「そっか」

何故そんなことを聞いたんだ。
そう思いはしても、何かの任務か、その伝達か。
紅葉さんは親父に可愛がられてるみたいだし、何かしらの用事でもあるんだろう。
そう思い、質問をするのを止めた。



そこでふと、違いを感じた。

同じ中忍になったばかりだというのに。
紅葉さんはもう、中忍らしい任務を受けているのだろうか。
そもそも、今まではどんな任務を受けていたのだろうか。
俺が草むしりやガキの子守りをやっている間、紅葉さんはどんな任務をしてきたのだろう。
彼女程の実力がある忍に、わざわざ雑用みたいな任務はさせないだろう。
ということは、つまり。

同じ時期に中忍になったはずなのに、こんなにも違うのか。


そう、思わざるを得なかった。



「それじゃぁ、一緒に帰ろうか」

「・・・は?」

どうも今日は思考に嵌りやすいようだ。
気がつけば目の前にいたはずのナルトは何時の間にか消えていた。
そして耳に入ってきた言葉に、意味を理解してから思わず過剰に反応する。
薄暗くなり始めた街中で良かった。
普段から気の抜けた面を晒しているのは自覚しているが、この時ばかりは間抜けな顔を少しでも誤魔化せた気がして、少しの安堵を覚える。
兎角、何があったのか全く理解できていない辺り、俺は相当考えこんでいたらしい。



最近、よくある。

決まって彼 女のことを考える時。
俺と彼女の差を思い知らされる。
生きた時間も、里からの信頼も、実践的な実力も。
何一つ彼女に勝てやしないんじゃないか。
そんなことを考えてしまう。


この間だってそうだった。
彼女より先に中忍になったのだと思って、彼女に上手く指示が出せるのか、なんて思い上がったことを考えてみた時期もあった。
けれど実際は、彼女も俺と一緒に昇任した。

しかも、彼女の場合はやっと彼女の実力に役職が追いついただけで、俺が中忍になろうと、その歴然とした差が埋まる訳ではなかったのだ。

俺は、



「シカクさんに用事があるから、家にお邪魔してもいいかな」

聞いていなかった事を察知したらしい紅葉さんが再度説明をし、返事を促してくる。
固まっていた俺を見つめる彼女に、慌てて返事をすれば、自然と互いの足は家路へと歩き出した。


俺は、随分と上から物を考えていたらしい。
そう思った途端、恥ずかしいやら情けないやら、とにかくそう言った感情がごちゃまぜになって気持ち悪かった。

紅葉さんに敵わないとわかって、少しの靄が胸に湧き上がる自分と、
敵わなくて当たり前だ と納得する 自分。
隣を歩く彼女を盗み見れば、変わらずに緩く笑みを湛えている。
相変わらず何を考えているのか、全くもってわからない。



あー、めんどくせぇ。


つーかそもそも。
俺は楽に人生楽しめそーだから忍になった訳で。
誰かに負けるだとか、俺の実力が足らないだとか、んな熱血な事思う奴じゃ無かったはすだ。
現に、俺と同じだと思っていたナルトの成長を見ても、
あぁ、そうか。ぐれぇにしか思わなかったし。
まぁ、周りに格好がつく程度に、死なない程度に強くなれればいいや、なんて思っている俺だ。
その俺が、何故今こうして悩んでいるのか。


そもそも何に悩んでるんだ。
女である紅葉さんに負けることか。
それだったら既に本戦で女のテマリに負けてい る。

女よりも弱い自分が格好悪いからか。
俺より強い女なんざ五万といるだろうよ。

考えれば考える程、深い沼にはまっていく感覚がした。
俺自身の思考も、彼女の思考も、
最近は分からないことが多すぎる。
どっと疲れを運んできた思考に、思わずため息が溢れた。


「はぁ」

「ため息って人を不幸にするんだって」

「幸せが逃げる、なら聞いたことありますけど」


「幸せが逃げたら、何が不幸かも分からなくなるでしょ」

緩い笑みを浮かべて、告げられた。
俺より少し高い身長が恨めしい。
まるで母親に諭されている様な気分になった。


「はぁ。まぁ、そうっスね」



普段から、そんな事を考えているのだろうか。
それともため息を漏らした俺に気を利か せたトンチだったのだろうか。
今までの思考がプツリと切断され、彼女を食い入るように見つめた。

相変わらず、分からない人だ。
何を見て、何を考え、何を思っているのか。
俺では到底及ばぬ存在であるのに、
こうして隣を歩いて、手を伸ばせば触れられる距離にいる不思議に、乾いた喉が鳴った。

帰り道。
幸い、気まずくなることも、何かを喋らなければと焦ることもなく、ぽつりぽつりと言葉少なく会話は続いた。
日が沈み、静かになり始めた商店街を歩く時間は、存外楽しいものだった。





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