負
甲高い音が辺りに響く。
頑強な岩肌が手から発せられたチャクラの塊により呆気無く大穴を開けていた。
「頑張ってるね、サスケ」
突然声をかけられた。
最近修行の場として此処を使っていることを知っているのは、カカシと紅葉だけだ。
声から予想し振り返れば、案の定、見知った幼馴染の顔を見つけた。
「・・・紅葉か」
「お疲れ様」
どの位の間修行していただろうか。
額に浮かぶ汗を拭い一息付くと、どっと疲れが押し寄せた様な気がした。
「1人で根詰めても進まない時もあるよ」
「俺は、早く強くならなきゃならないんだ」
流石にやり過ぎたか。
そう思いはしても、焦る気持ちを抑える事も出来ず、
また普段は気の済むまで修行を続ける俺に何も言わない紅葉から言われたことで、カッと体が熱くなる。
そうだ。
俺は、早く強くならなきゃならない。
ナルトは、サクラを守る為に戦った。
あの我愛羅に立ち向かった。
俺は、ただ見ていることしかできなかった。
もう目の前で誰かが死ぬのは
「強く、ね」
思考を遮るように呟かれた。
余りにも馬鹿にしたような声音に、思わず強く睨みつける。
「それは、何のため」
何の為に強くなるの。
小首を傾げ、試すように問われた。
普段のぼけっとした表情が、少し怖く見えた。
そんなの
「もう俺の目の前で大切な誰かが死ぬのはごめんだ、なんて思ってたり」
的を得た、正にその通りの回答にぴくりと肩を揺らす。
コイツは何時もそうだ 。
何も喋らなくても、視線を向けなくても、全てを分かった風に心を読んでくる。
その事を尋ねれば、決まって「わかるよ、あれだけ会話してきたんだから」と笑って言うが、それで納得出来たことは無かった。
「わかりやすいなぁ、やっぱり」
読心術にでもかかっているのかと思う程に、見透かされている気分だった。
「サスケはさ、欲張りだよね」
クスリと柔らかく笑ってから、紅葉は挑発するように嘲笑ってみせた。
本当に子供だと言わんばかりの態度をとられ怒りと困惑が押し寄せる。
おかしい。
普段はこんな挑発的な喋り方をする奴じゃないのに。
「・・・何かあったのか」
「・・・」
探るように問いかければ、一瞬眉を下げてから押し黙る。
やっぱり。
何かあったんだ。
「どうした」
「なんでもないよ、サスケ」
そっと近付き肩に手を置けば、その手を包み込む様にして握りしめてきた紅葉の手が、何時もより冷たく感じた。
「それよりさ、術の向上に伸び悩んでるんだったら、カカシさんの所に行ってみれば?」
「・・・カカシ?」
「そうそう、カカシさん。今日だってカカシさんと修行だって聞いてたけど?」
「急用だとか言ってたな」
明らかに話題を変えた紅葉。
けれどそれも何時もの事だった。
触れて欲しくない所には、誰にも触らせない。
長年一緒にいる俺も、俺より長く紅葉と一緒にいた彼奴にさえも。
だからか、普段より明からさまな誘導にも、流されるままに会話を続けた。
「あれ、そうなの?さっきカカシさんが歩いてるの見たけど」
もうお仕事終わって、部屋で寛いでたりして。
・・・ありえる。
カカシの適当さ加減は良く知っている。
もし急用が終わり俺を探していたとしても、此処は少し里から離れすぎている。
もしかしたら本当に家で寛いでいるかもしれない。
「・・・悪い、紅葉」
「いいよ、行っておいで」
深くため息を吐いてから、名前を呼べば、やはり何も言わなくても通じる意思にほっと安心を覚える。
先程は怖いと思った意思の疎通が。
「あぁ、行ってくる」
最後にそっと握っていた手に力を入れてから離す。
「あぁ。そうだ、サスケ」
ぐっと足に力を入れ木に飛び移ろうとした時、ふいに紅葉が思い出したかのように呟いた。
「選べるのは1つだけだよ。目的を見失わないで」
「・・・あぁ、わかった」
何がだろうか。
あの時は良く考えもしないで返事をしていたのだと思い知らされる。
倒れていたカカシ。
ナルトを狙う彼奴。
対面して漸く思い出した。
俺は、復讐者だった。