侵入
初めに里の異変に気付いたのはカカシだった。
甘味屋とは無縁そうなカカシを店前で見かけ目を見張ったのも束の間、店内に潜む影に眉を寄せた。
後に彼奴等が暁と呼ばれる組織であることを知るが、あの時は木の葉崩しのお零れを狙う他里の忍だという認識しかしてなかった。それが酷い間違いだったことに気付くも、敵はその油断を容赦無く付いてくる、正に難敵。
一族殺しの罪人うちはイタチが里に侵入。
後から追いついてきた写輪眼を持つカカシすら歯が立たない相手。助っ人で飛び出してきたガイを含め戦闘に参加出来るのは俺とガイだけ。
地の利などイタチに関係ない。
写輪眼がある以上、下手に相手の目を見ることすらできない。
切羽詰まった状況だった 。
「久しぶり、イタチ」
そんな時、新たにやってきたのは巨大な熊を従えた紅葉だった。何処から嗅ぎつけてきたのか。間に合ったとばかりに胸を撫で下ろしたその瞬間を、俺は捉えていた。
「紅葉か、久しいな」
「・・・相変わらずだね」
「元気そうで安心した」
「サスケも元気にやってるよ」
互いに牽制しつつも交わされた会話。
普段より饒舌に喋る紅葉。
あぁ、そうか。
こいつら、幼馴染だったな。
緊張状態にある敵同士の会話とは思えないそのやりとりに、一抹の不安を覚える。
「おい。紅葉、わかってるな。こいつは」
「わかってますよ。一族殺しの大罪人、でしょ」
捕らえます。
遮る様に言われた言葉に少しの棘を感じたのも束の間。言うが早いが、熊と共にイタチへと向かう紅葉に遅れて反応する。
飛び出す熊。
それを去なし新たに向かってくる紅葉のクナイを受け止めるイタチ。
ものの数秒、まるで黄色い閃光の様。
一瞬の攻防に動く暇すら無かった。
「腕は鈍っていないみたいだね」
「お前は、少し速くなったな」
「よく言う」
ぎりとクナイが身じろぐ音がした。
紅葉にとっては嘗ての幼馴染が、信じていた裏切者が目の前にいるのだ。
なんとしてでも捕らえたいのかもしれない。
「紅葉」
「里を脅かしにきたわけではない。探し物をしに来ただけだ」
紅葉を呼び、態勢を立て直そうとした所で、イタチは大きく後ろへと下りそう告げた。
先程も言っていた。
目的は間違いなく四代目の遺産、うずまきナルト。信用はならないが、今の所里を侵略しに来た訳ではないらしかった。
「それで逃すとでも」
「相変わらずお前は真面目だな」
カチャリ。
クナイを構え直す紅葉に、どうこの場に押し留めるかを逡巡する。
明らかに冷静さを欠いた雰囲気の紅葉に、今敵を見逃すという行為が出来るとは思えなかったが、今は見逃すのが、最善だった。
「紅葉」
「・・・わかってます」
もう一度強く名前を呼べば、紅葉は深いため息と共に体の力を抜く。
「それでは、みなさん」
優雅な挨拶と共に去っていったイタチ。
力を抜ききりボンヤリと遠くを見つめる紅葉に、かける言葉など見つけられるはずもなかった。