花骨牌 | ナノ

倒な二人


「そう拗ねるな」

葬儀の帰り、俺はぶすりとした顔の後輩を見つけ深く溜め息を吐いた。がしがしと後輩の頭に手を乗せながら声をかければ、更に不服そうな顔をこちらに向けてくる。

「砂の奴らを取り逃がしたのが、そんなに悔しいか」

「そうですね。上層部の方々が外の連中に大して、非常に大きな懐を持っているのだということは理解しました」

明らかに棘を孕んだ台詞に、ふとコイツがそういった性格の持ち主であった事を思い出す。何時もは大人びていて冷静さを欠かない為ついつい忘れがちであるが、コイツは外に対して酷く冷たい。

敵に容赦がない。

全てを皆殺しにも、見逃すこともせず、必ず尋問部に引き渡す敵を連れて帰ってくる。そういう所が、他の忍よりも抜きん出て容赦が無い所であった。まるで敵を根絶やしにしたいとばかりに徹底したその姿勢に、時々寒気すら覚える。

紅葉がイビキとコンビを組んだ日には、きっと大変なことになる。
そう思わざるを得ない程の排他的思考は、任務の際によくその片鱗を見せていた。


「シカクさん、何とかしてくださいよ」

「いや、俺に言われてもなぁ」


どっと肩を落とす。
無茶振りも良い所だ。参謀役としてある程度中枢にいる自覚はあるが、それが里の決定を覆す事とイコールになる事はない。それはコイツだって理解しているだろうに。

半分冗談、半分本気。
そんな視線を寄越される中間職の世知辛さを身に染みて感じた。


唇を尖らせ、不満を露にする後輩。
さて、どうしたらいいのやら。
紅葉の頭に乗せたままの手を雑に動かしながら、上手い台詞を思案する。そこらの連中なら適当なことを言えば諦めてくれるんだが、紅葉は確約を貰うまでは粘りそうな性格をしている。

さて、どうしたものか。


「親父、誰彼構わず絡むんじゃねぇよ」

そんな時、俺と良く似た声がした。気怠そうな声音に、それが倅だと理解し顔を後へと向ける。

「よぉ、シカマル」

「・・・あぁ、シカマルくん。お久しぶり」

「・・・っす」

後ろ姿では判断出来なかったのだろう人物が、自分の見知った人であったことに少しの驚きを見せながらも、シカマルは彼女の挨拶に答えた。それからジッと視線を紅葉に向けたままちらちらと観察するシカマルに、ふと数週間前の事を思い出す。


以前に紅葉を紹介した時も、シカマルは観察するように見ていたと。
我が倅らしく、シカマルは頭の作りが俺によく似ていた。コイツはどんな奴で、どう動かすのが最適か。アイツはどういった思考をして、次にどう動くのか。

そういった他人の思考を読み取り、また考え動かす能力に長けていた。最初に紅葉を紹介した時に探るように観察していたのも、その性格が影響しての事だと思っていたが、

もしかしたら。



眉間に皺を寄せ、口をとんがらせるシカマルを一瞥する。
ポケットに手を突っ込み肩を丸め猫背を保つその姿は、一見何時も通りの玄人の様な雰囲気を醸し出していた。

「どうした、シカマル。そんな不躾な視線じゃ、女は落ちんぞ」

「ちげぇよ、馬鹿」

冷やかす様に笑ってからかえば、阿呆かと睨みつけてくる倅。親に向かっての暴言を窘めるべきなのか、その意図の伝わらない視線では誰もお前が何を言いたいのかわからないぞと教えてやるべきなのか。全くもって不器用過ぎる倅に、ニヤニヤとした感情が少しばかり湧く。


「・・・昨日は、ありがとうございました」

「昨日?」

暴言を吐いた後、少しばかり拗ねたように喋り出すシカマル。聞けば、どうやら木の葉崩しの際に助けられた礼を述べたかったようである。

シカマルはまだまだ餓鬼だ。
女に優しくだ、手を上げるななどと日頃から俺に言い聞かされているせいか、コイツは女より上であることに一種のプライドの様なものを持っているのは知っていた。

邪魔くさくいプライドだとは決して思わない。
里を、大切なものを守るために必要なプライドだと、俺は思っている。そんな倅は勿論、まだまだ雛っ子で、コイツより強い女がいることを理解してもいる。

だがしかし、どうやらその常識が紅葉の前では当てはまっていないのではないか、そう思ってしまう程に、息子は全身で納得がいかないというように理性と心の不一致を表現していた。

「口寄せの熊、残して行ってくれたのアンタだろ」

「・・・あぁ。わざわざお礼なんて良かったのに」

「それでも、助かったんで。ありがとうございました」

ちらとも感謝していないような憮然とした顔をしてお礼を告げる我が息子。別段気にした様子もなく対話している我が部下。どちらも大変な性格をしたもんだ。

コイツ等でこの先の木の葉は大丈夫なのであろうか。コミュニケーション力の無さに苦笑いを覚えた。

「なんだ、お前等。めんどくせぇな」

「はぁ?何言ってんだよ、親父」


余りの淡白とした会話に、ふと思ったことをわざと口にして茶々を入れる。
案の定食いついてきたまだまだ子供の倅。変なプライドを育てちまったかと思ったのもつかの間、こいつの面倒そうな顔をみて少しばかり安心する。

「よし。母ちゃんに心配かけちまう前に帰るか、シカマル」

「・・・めんどくせぇ」

家に帰るのをめんどくさがる息子の口癖とは裏腹に、紅葉に軽く会釈を済ませるシカマルにまたニヤニヤとしたものが溢れてきた。

「悪いな、紅葉。そういう訳だから、俺等はこれで帰る。砂の奴等をまた捕まえることは出来ないが、もう少し警戒心をもてと上役には伝えておいてやるから」

最後に適度なフォローと共に頭を一撫でしてシカマルと共に家路へと着いた。言質を取られる前に逃げ出せて良かったなどという思考は、一切見せずに足を動かす。


「・・・親父」

「なんだ」


「・・・なんでもねぇ」

歩き始めて直ぐに声をかけてきたシカマル。
しかし何を思ったのか言葉を紡ぐことを止めた息子に苦笑する。コイツも、紅葉と同様、難儀な性格してやがる。


そんな思いを隠すようにガシガシと息子の頭を撫でれば、叩き落としてくる手がなんだか痛痒かった。





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