花骨牌 | ナノ

たい瞳


あの時の笑顔が全て嘘だったかのように、
鋭く向けられる冷たい瞳が、
怖いと思った。



木の葉崩しは失敗に終わった。

我愛羅は既に戦意喪失している。
ここまで弱った我愛羅を見るのは初めてだった。恐らくこの調子では、本戦会場の方でも既に決着がついているだろう。

我愛羅と戦った奴も、もう戦える状態じゃない。他の忍が追ってくる気配もない。
私とカンクロウはこのまま弱った我愛羅を連れて里に戻る。それが今なら出来るし、そうすべきなのだと思った。固い地表を蹴る為にぐっと足に力を入れる。
だが、そこに思わぬ奴が現れ、思惑は失敗した。



「動くな」

急に体の自由を奪われた。
喉元にちりと硬質な物が当たる感覚。
視線を動かせば、つい先日見た顔がそこにはあった。木の葉の下忍、香坂紅葉。甘味屋で出会った、彼女だった。けれどそれは人違いではないかと己の記憶を疑う。


ちりちりと首筋に感じる凶器。

一切の迷いなく向けられる敵意。

あの緩い笑顔など、何処にも無かった。



「紅葉、待て。もうこいつらに敵意は無い」

「・・・サスケはそういうところ、甘いよね」

仲間の言葉すら一蹴りし、対面するカンクロウと我愛羅に牽制を続ける彼女にぞっとした。

「いつも言ってるよね。彼奴に復讐したいなら、弱さを捨てろって」

「・・・今は関係ないだろう」

「いーや。サスケ、君は何にも分かってないよ」

彼女の苛立ちを表すかのように押し込まれたクナイが、ぶつりと皮膚を抉る。細く流れでた少しばかりの血が焦燥を連れて来た。


どうする。

人質になった私が居ては、カンクロウも我愛羅もここから逃げることができない。何かを伝えようと声を発することすら憚られる程の強い拘束で、自分の意思を伝えることも躊躇ってしまう。

一体、どうしたら。


「・・・っ、紅葉さんっ」

「お久しぶりです、テマリさん」

やっとの事で出たのは、彼女の名前。
しかしそれに答えた彼女の声は、あの時の様な柔らかなものでは無かった。

少しずつ垂れ出る血。
じわじわと溢れてくる何か。
今ここにいるのは、きっとあの時の人物とは別人だ。そうに違いない。あまりにも冷たく感じる彼女の声音にぞっとして、現実を強く脳が拒絶した。

「貴方達は木の葉を脅かした。よって、貴方達を拘束し尋問部へと引き渡します。異議は認めません」

そう告げられるなり、動けない体を拘束されていく。いつの間に出したか分からない彼女の分身体が、カンクロウと我愛羅を雁字搦めにしていく光景を、ただ愕然と眺めていた。


一体何処から過ったのか。

彼女に気を許したのが間違いだったのか。

それとも、彼女と出会ってしまったこと事態が間違いなのか。

それとも。



「砂の命でしたこと。忍はそれに従う」

とても悲しいことですね。
拘束され動けない私たちに向けて呟かれた言葉は酷く当たり前のことで、今更何を言うのだと、呆然とした意識の中で考える。

何をいまさら、





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