弥生の終始に

「九州」

自分を真っ直ぐ見つめる瞳に射抜かれ、熱を帯びた言の葉に聴覚を侵される。

視線を反らすことなく、挑むように睨み返しても相手には最早効果などなかった。

これまで散々吐いてきた辛辣で高慢な言葉は、彼を諫める楔にも、互いをわかつ境界線にもなりはしない。

どこで間違ってしまったのか。頬に触れる手の平の温かさに逆らうことの出来ない己を心うちで嘲笑う。



あの時、彼の背中に願ったのはこんな結末ではなかったはずなのに。



「外れただな」
「何がだ」
「おめさの思惑」

数少ない東京出張。そこで偶然あった山形に誘われるまま夕食を共にしている。

別段語り合うことなどなく黙々と食事をしていた中の唐突な言葉に眉を潜める。

「言っていることの意味がわからん」
「山陽のことだず」

一瞬動きが止まる。視線のみで山形を諫めるが、当の本人は気にすることなく言葉を続ける。

「東海道と山陽が互いを頼り支えあっていくはずが、山陽はおめさを、東海道は…」
「蔵王」

『黙れ』の代わりに放たれた一言は今度は山形の動きを止める。

その視線に、言葉に山形は己の内が歓喜で沸き上がるのを感じた。

国鉄時代ついぞ呼ばれることの無かった名に山形は目を細める。

時代が変わろうとも、やはり彼は「名門つばめ」であるのだ。

「そんなことを言うために私を食事に誘ったのか」
「いんや、ただの独り言だず」
「…」



あの時、真新しい新大阪駅でまだ着任前の山陽を見かけた。

元は軍事路線だったらしい奴は間もなく東海道新幹線に並び立つ存在となる。

たった独りで重責に耐えていた彼にようやく責務を共にする『同志』ができるのだ。

零落していく自分には見ることのない未来を歩む同志が…。

願わくば、独りで溜め込むあの小さな子を支える存在であってほしい。


なのに…


ふいに山形の指が頬に触れる。

「おめさにとって大切なのはどっちだず?」

ハッ!山形の言葉に私は鼻で笑ってやった。

そんなものあるはずがない。私は常に独りで立ち続けねばならんのだ。

永久に。

そのためならば傲慢で辛辣な言葉を吐き続けよう。

「私は私で在るだけだ」


果たして頬に触れた指を滑らせ意味深に微笑む男に通じたのか危ういところだ。



終幕



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