CHERRY*BLOSSOM 3/8
外へ出て今までにないくらいに脈打つ鼓動を必死に抑えつけながら息を整えた。
こんなことをして…本当に良かったんだろうか…。
「…はい。飲んでないのに英世5人は多過ぎだぞ?」
そんな思考を巡らせていると、目の前に4枚のお札が現れて…はっと顔を上げる。
清水さんが困ったような…呆れたような顔で僕を見つめていた。
「えっ…でも…っ!」
「千円でも高いくらいよ!楽しんだ人が多めに払えばいーの!それでも納得出来ないって言うなら〜…お茶、ご馳走して♪」
合コンを抜け出して、清水さんとお茶…。
僕の人生に奇跡が起こっているとしか思えない…っ!
「…ん〜…私ピーチティーにするっ!席確保しとくね!」
手でOKサインを出してウィンクを飛ばし、嬉しそうに店の奥へと消えていった。
それから僕は慣れないながらも注文を済ませて商品を持ち、ぐるりと店内を見回し笑顔で華奢な腕をブンブンと振り回す清水さんの元へと向かった。
「…ほとんど食べてないみたいだったから…よかったらこれ…」
「わぁっ!サンドイッチだぁ〜!あ、でもさすがにこれは払うよ!え〜っと〜…」
「いや!僕が勝手にやったことだから気にしないで!」
ごそごそとバッグの中を漁る彼女を慌てて言葉で制する。
すると申し訳なさそうに声を漏らしたが、次の瞬間には笑顔が返ってきた。
「じゃあお言葉に甘えて…ありがとう!いただきます!」
清水さんは見た目は今時の子という感じで、落ち着いた茶髪を一つに纏め上げて露出が高めのブランド物だと思われる洋服を身に纏っている。
もちろんバッグと財布は同じブランドで統一されているし、メイクはナチュラルではあるものの全体的に見ると派手な部類だ。
正直見た目だけで判断すると、少し近寄りがたいかもしれない。
だけどこうして話してみて、凄くしっかりしてて真面目な子だと感じた。
「あ、今更だけど…いきなりあんなことさせてごめんね!初対面なのに…」
“初対面”…。
彼女からすれば僕はもちろん初対面になるだろうが…僕は以前から清水さんのことを知っていた。
入学式が始まる前…桜の木の下で風に舞う花弁に包まれていた人…僕が一目惚れしてしまった人…。
それが彼女だった…。
「…実は僕、前から清水さんのこと知ってたんだ。入学式の日…凄く綺麗だなって思って…」
そこで不意に自分がとんでもない単語を発したことに気が付いた。
綺麗って…綺麗って言っちゃった…っ!
「…あ!え、えっと!つ、つまりそのっ…」
苦し紛れにそう誤魔化そうとすると…清水さんの表情が一瞬にして堅くなった。
「…うん。ありがとう」
何の変哲もないお礼の言葉…。
けどその表情は、あきらかに作られたとわかる偽物の笑顔だった。
「あは!ごめんね!私、覚えてないや」
「う、ううん!気にしないで!」
そう言った彼女の笑顔は間違いなく本物で…きっと触れてはいけない部分があるのだと何となくだけれど悟った。
「でもこうして会ったのも何かの縁ってことで…春華って呼んでよ」
「…えっ!い、いいの?!」
「うん!私は航(ワタル)くんって呼んでもいい?」
「っ!も、もちろん!」
思わぬ提案にかつてない程心が躍った。
何よりあんな簡単な自己紹介をしただけなのに名前を覚えてもらえていたことが嬉しかった。
その日は携帯の番号とメールアドレスを交換したり、他愛もない話をして解散した。
また明日会う約束をして――。