忘却した白い過去 4
「おはよう、二人共。どこ行ってたのさ?」
フォルテとラーグは、リゼルの姿を見つけ駆け寄る。向かいの席に座る二人の姿を確認したリゼルは、口元を拭い、問いかけた。
「二人の部屋に行ったら、いなくてさ。心配したよ」
安心した声音。心配性なリゼルに、フォルテは謝る。
「ちょっと、稽古してたのよ」
そう言うと、朝食を食べ始める。リゼルは驚いたのか、目を丸くした。
「そうなんだ……こんな朝から……」 「まぁ、アタシが朝早く起きちゃってね。ブラブラしてたら、偶然ラーグと会ったってわけ」 「それで、稽古? 本当、すごいね」
感心しているリゼルに微笑むと、隣に視線を持って行く。そこには、アックスがいた。たが、アックスは目を閉じたまま食べ物をくわえ、口をもぐもぐ動かしていた。 これに呆れるフォルテ。
「リゼル、アックスが寝ながら食べてるわよ」
言われて気付いたリゼルは、アックスの肩を掴む。
「本当だ。ほらアックス、起きて。寝ながら食べない!」
アックスの肩を揺らす。口にぶら下がっている食べ物が、一緒に揺れた。アックスは目をゆっくりと開き、フォルテとラーグの顔を交互に眺める。口を開こうとしたが、くわえていることに気づき、口の中に入れ咀嚼し飲み込むと、屈託のない笑みを浮かべた。
「おはよう! フォルテ、ラーグ!」 「おはよー」 「あぁ」
ラーグは、自分の口に食べ物を放り込んだ。
「食事中に寝るなんて、アックスも相変わらずね」 「だって、眠たかったんだもん」 「でも、食べてる時はやめてよ……」
注意すると、笑顔で頷く。当てにならないなぁ、とリゼルは溜め息を零した。 ふとフォルテはアックスに「体、大丈夫なの?」と聞く。彼はキョトンとした後、「大丈夫だよー」と明るく言う。 嘘をついているようには、全く見えない。本当に大丈夫なのだろう。
「カゼもひいてないんだよー。スゲェだろ!」 「アホは風邪をひかないんだな」 「アホって言うなー! バカはカゼをひかない、だろぉ!」 「……」 「え、何!? その、知ってたのか、みたいな顔! そのくらい知ってるよ!」
ラーグの表情だけで、伝わったらしく、アックスは怒り出す。二人はそれを見つめ、クスリ、と笑う。
「本当、元気そうで良かったわ」 「そうだね……アックス。その辺にして、ご飯食べなって」
アックスを宥めるリゼル。アックスは、ふてくされた顔をするが、ご飯を口に入れると嬉しそうに頬を綻ばせた。 その姿に安堵する。 四人が色々と話していると、頭上に影が出来る。上を見ると、ユアとシャンクスが立っていた。
「おはようございます」 「俺様達も混ぜてー」 「おはよう。いいよ、どうぞ」
リゼルは隣にあるイスをひく。
「マスター、お先にどうぞ」 「おう。んじゃ、リゼルちゃんの横、失礼」
シャンクスに言われ、ユアはリゼルの隣に座る。その後、シャンクスは向かいの席、つまりフォルテの横に座った。 手を合わせ、小さな声でいただきます、と呟く。ユアは挨拶も何もなく、食べ始めた。 ある程度食べると、シャンクスは手を止め、アックスを見る。
「アックスさん。お体の方はいかがですか?」 「大丈夫だよ、シャンクス! ほら!」
自分の前にある皿を指差す。
「安心しました……」 「人騒がせなヤロウだよなぁ」 「こうなったのは、マスターのせいなのですよ?」 「シャンを探すため、だろ? 俺様、関係ねぇよ」 「関係ありますよ。マスターが外に出るから、こうなったんです。反省して下さい」 「……いいじゃねーか。外くらい出ても」 「出るのは構いません。しかし、通信機を所持してから出かけて下さいよ。そのせいで、こんな大事になったのです」
淡々と語るシャンクスに、ユアは呻き声を漏らす。追い打ちをかけるように、彼女は攻撃する。
「マスター、ナンパはどうでしたか? 成功しましたか?」 「あのなぁ……俺様が外に出るたび、ナンパすると思って――」 「思います」
即答され、ユアは肩を落とす。彼は少し傷ついた。
「はっきり言うが、ナンパしてない」 「じゃあ、何しに行ってたのさ?」 「え? あ、そ、のぉ……さ、散歩?」
リゼルの問い掛けに、言葉を詰まらせるユア。目を閉じているラ―グ以外の全員が、目を細め、彼を見据えた。 明らかに信じていない彼らに、苦笑いをする。
「り、リゼルちゃん! 本当だって―――!」 「何でそんなに歯切れの悪い言い方するのさ」 「バレバレね、ユア」 「フォルテちゃんまで――! 俺様、本当だって! 街にすら、行ってないん――!」 「街に行ってないなら、どこに行ってたのよ?」
慌てて口を手で塞いだユアは、黙ってしまう。目をキョロキョロと忙しなく動かし、考えているようだ。言えない事なのだろうか。
「……ははっ。そうですよ、してました! ウソつきました!」
そして、ふっきれたらしく吐き捨てるよう言う。 不審に思った者はいないだろう。従者を除いては。
「んじゃ、ナンパしてたんじゃん!」 「そ−だよ。少し、反抗したくてね」 「あんまり、意味なかったわよ?」 「バカだな」 「あん? 何か言ったか?」
ユアは立ち上がりラ―グを睨みつけるが、彼は無視した。それに、怒りを覚えてしまう。 リゼルに窘められ、彼はイスに座り直す。
「リゼルちゃん、あのヤロウ、最悪だよなぁ」 「は、はは……そ、それより。いい加減、オレにちゃん付けするの、止めてくれないかな? すっごく、ムズムズするんだけど…」 「無理」 「な、なんで!?」
すぐに返答され、リゼルは困惑した顔をして、その理由を待つ。
「だってさぁ、初めて見た時、女の子だと思ったんだもん。頭の中でインプットされちゃった」
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