定めの炎 3
時は少し戻る。 場所も、戻る。
「へぇ、シロンって名前なんだぁ!」
銀金色の髪の人物の名前を聞き、アックスは呑気な声を出す。 シロンは、笑みを浮かべる。
「ところで、貴方の名前は?」 「んー? あ、そうだった。アックスって言うよー!」 「アックスさん、ですか。良い名前ですね」
自分の名前を褒められ、アックスは照れくさそうに笑い、頭を掻く。 そして「そっちもいい名前だぜ!」と言い返す。シロンは驚いたが、微笑む。
「そう、ですか? 嬉しいですね」 「えへへ〜。あのさ、いきなりなんだけど、おっさんの事、なんて呼べばいいかな?」
いきなりの質問に、シロンは首を傾げる。
「普通に、名前でも――いえ、そうですね……おっさん、でいいですよ?」 「へっ?」
素っ頓狂な声が出る。
「ですから、おっさんと呼んで下さい。先程言われた時に、気に入りましてね」
ニコニコしている彼に、アックスはかなり――いや、ものすごく変な人と会っちゃったなぁ、と思ってしまう。おっさんという言葉を気にいるなんて、いないだろう普通。 しかも、まだ若く見える。それが、初めて会った人間におっさんと呼ばれ、挙げ句の果てに気に入ってしまうとは。 アックスはこめかみをピクピクさせるが、笑顔を見せた。
「うん! おっさんと呼ばせてもらうよ! なら、僕の事、さん付けしなくてもいいぜぇ?」 「癖なので、気にしないで下さい」
楽しそうに笑うシロン。アックスはまた視線を感じる。後ろには、やはり誰もいない。 だが、さっきシロンのおっさんと呼んで下さい発言の時、微かに別の声が聞こえた気がする。少女の声で「シロン様っ!?」と慌てた声が。木の上にでもいるのだろうか。上を見ても、人の姿が確認できない。 何かを探している彼に、シロンは声をかける。
「どうしましたか?」 「えーとね。おっさん以外に誰かいない? 声がしたんだけど…」 「…それは、護衛の方ですね。ロラ、というんです」 「そーなの!? すげぇ! おっさん、貴族ってやつ!?」 「ま、まぁ。そうですね……」
少し間を空け、シロンはアックスの食いつくような質問に困ったような顔をし、答える。アックスは気にせず「貴族なんだー」とジロジロ穴が開くほど彼を眺める。見られた方は、居心地が悪そうだ。お構いなしに自分の気が済むまで見ると、目を水面に戻す。
「でも、何で、姿見せね―んだ?」 「どうしてでしょうね。私もよく分からないのですよ……どうして、ですか?」
不意の問いに、木の枝が軽く揺れる。彼らの寄りかかっている木にいたようだ。 かなり動揺しているのが分かった。
「ロラ……?」 「あの、私は……」
戸惑いを隠しきれない声色が、真上から聞こえた。アックスは「女ぁぁあ!?」と叫ぶ。
「はい。ロラは女性ですよ。年齢は、いくつでしたっけ?」 「――十九、です」
問いかけられる事に諦めがついたのか、彼女は答える。だが、下には降りてこない。 またまたアックスはビックリする。
「女で、しかも十九!? 僕より四つ年上だ!!」 「アックスさんは、十五歳ですか?」 「うん。そうだよー」 「成長期ですねー。まだ、声変わりしてませんし」 「せーちょーき? そうなのかなー。 僕の声は変わんないよ?」
声変わりの内容を理解出来てないようで、別の意味と捉えたのだろう。シロンは笑いを堪える。
「その内、分かりますよ」 「そーなの? わかるんならいいやぁ。んでさぁ、ロラはいつから護衛してるんだ?」
上に顔を向けると、視線が合う。 彼女は顔を赤くさせ、怒りでワナワナと震えていた。
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