定めの炎 1





研究室から自分の部屋へ戻る途中、スノウから貰った飴を渡すためアックスの部屋を訪れた。ノックをしても反応がない。寝てるのかと思い、ドアを開け中を覗く。
部屋の主の姿はない。なのでベッドにも居ない事になる。首を傾げる。

「あれ? アックス、どこに行ったのだろう? 今日は何もないって言ってたのに……」

彼に飴をあげられない事に少しショックを受けるが、建物内のどこかにいるのだろう。ご飯の時にでも渡そう、そう考え、自分の部屋に戻る。
中に入ろうとした時、

「リ、リゼル…・・・」

名前を呼ばれ、振り向く。そこには、女性が一人オドオドとした態度で立っていた。
鳶色の髪を一つにみつ編みにし、前に垂らしている。藍色の瞳はキョロキョロと動いており、リゼルに視線を合わせない。
リゼルは微笑み、挙動不審な彼女の名前を呼ぶ。

「レヴェリーさんじゃないですか。久し振りですね」

レヴェリーは小さく「はい。久し振りです……」と頬をものすごい勢いで赤く染め上げた。彼は気付いていないらしくで、話を続ける。

「任務、終わったんですね。大丈夫でした?」
「はい。大丈、夫、でした……コトハが、頑張って、くれて……私、何も、してませんし……」

ロングスカートをギュッと掴み、俯くのをリゼルは静かに見ていた。心の中で苦笑いをする。
彼女は見た通り、引っ込み思案で、しかもかなりネガティブになるのだ。何かあると、すぐに自分のせいだと、思ってしまう事もある。
幼い頃に何かあったのだろうが、話すとこれでもかと言う程、そんな思考になってしまうため、大変なのだ。
そして、レヴェリーはというと――

「ご、ごめんなさいぃぃ! 私なんかに、話しかけられたら、気分、悪いですよね……私なんて、私なんて――」
「うぅん! 全然悪くないから! ならないから! だから、ナイフはしまってぇぇぇぇ!」

いつの間にか手にしていたナイフを喉元に当てていたので、リゼルは焦る。ものすごく、焦る。彼女は、護身用のナイフを持っている。だから、それなのだろう。
しかし、そのナイフを使って、自殺をはかろうとする。未遂になるが。
もはや、所持している方が危ないのではないか、と考えてしまう。
彼がナイフを取ろうとすると、別の手が彼女からナイフを取り上げた。
リゼルとレヴェリーは、その人物を見る。
二人よりも背が高い人物は、左右で色が違う瞳で、レヴェリーを見据える。

「全く。レヴェリー殿。リゼル殿に迷惑をかけてはいけないでござるよ。後、意味もなくナイフを自分に向けない」

コトハは目を細め、注意する。レヴェリーは体を竦ませ、謝る。それに「分かったのならいいでござる」とナイフを返す。もう、刃を向ける事はなかった。
コトハの息が荒い。走ってきたのだろう。

「ありがとう、コトハさん。助かったよ」
「気にするな、でござる。いつもの事でござる故」
「そ、そう…」

本当に気にしていないようで、感心してしまう。ナイフをしまったレヴェリーは、コトハの服を引っ張り、見上げる。

「コトハ、ユアは、見つかった……?」
「ユア殿はどうやら、外に行ったようでござるよ。それで、シャンクス殿を探しているのでござる」
「シャンクス、を? そうか……」
「シャンクス殿なら、ユア殿がどこに行ったのか分かると思ったでござるよ」
「ユア、は……シャンクスの、主、だもんね……連絡――私、通信機、持ってない……」
「拙者も、持っておらぬのよ……」

落胆する二人だったが、リゼルが居る事を思い出し、勢いよく彼に目を向けた。
リゼルはビクリッと体が跳ねた。彼女達から、期待を込められた眼差しが彼に突き刺さる。

「あ、部屋に……あるよ」

部屋の中に入り、通信機を手に取ると、コトハ達の所に戻る。渡すと、早速コトハは通信機をいじりだす。
音が数秒鳴った後、何も映っていない画面に少女が映る。彼女は無表情のまま、唇を動かす。

『どうかされましたか? コトハさん?』






mokuji



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