戦いの号火 5
アックスは一人、廊下をウロウロしていた。任務がなくする事がなく、暇だった。 試しに、リゼルの部屋に遊びに行ったが生憎、留守。 やる事がなくて、とてもとても暇だった。
「うぉー、やる事がねぇ!」
他の人達も任務や用事などで、遊んでくれる者がおらず、彼はただ歩いているだけ。
「フォルテも、ラ―グもいねぇし。どーしようかなぁ…」
いかにこの暇な時を乗り越えようか考えていると、不意に名前を呼ばれる。振り返ると、そこにはこちらに向かって走って来ていた。 淡い金色の短い髪。ラ―グも金髪だが、こちらの人物は薄い色をしていた。全体的に切りそろえられている。 身長はアックスよりも高く、その風貌は女にも見えるし男にも見える。 そして一番目立つのは、左右で違う色の瞳。左目は薄い青色、右目は濃い青色。 左頬には、不思議な模様が刻まれていた。 その人はアックスの前まで来ると、息を整える。
「アックス殿」 「あっれー? コトハ、どうしたの?」
コトハと呼ばれた人物は、困ったような笑みをアックスに向ける。 コトハは話し方が独特だ。そして、性別はどっちか分からない。だが、アックスはそんな事を全く気にしていない。彼以外――ここの組織の人達も同じように普通に接している。
「聞きたい事があるでござるよ。ユア殿をお見かけしなかったか?」 「ユア?」
今日会ったかな、と頭の中で記憶を巡らせる。
「そういえば、さっき会ったよ!」 「本当でござるか!? どこにいるでござるか?」 「えっと、それが……外に行っちゃった。どっかに行くってさ」 「どこへ行くかは……」 「知らないなぁ」
コトハはガクリと頭を下げた。せっかく手がかりを見つけたのに、見失った気分なのだろう。
「そうでござるか…」 「僕こそ、ちゃんと聞けば良かったね…」 「気にしなくてもいいでござる。外に出たと分かったのだから、良い収穫になったでござるよ」
満足そうに彼の頭を撫でるコトハ。アックスはムー、と唸り声を上げ、不満そうな顔をする。
「コトハ。僕、子供じゃないよ」 「拙者から見たら、まだ子供でござるよ。弟と言うべきかな」 「弟なら、別にいいけど…」
ムスッとしているが、撫でる手を払わない。 弟も子供もあまり変わらないと思うが、コトハは口に出さなかった。 ある程度撫でると、手を離した。
「で、ユアの事はどうすんのさぁ?」 「他の者に聞いてみるでござるよ。もしかしたら、分かっている者がいるかもしれない」 「シャンクスに聞けば、早いんじゃないの?」 「それはそうなのでござるが……そのシャンクス殿の行方も分からぬでござる。通信機を忘れてしまって……」
アックスは体を触るが、通信機を持っていなかった。
「ごめん、僕も持ってないや……」
しょぼくれる彼に「気にしないでほしい」と優しい声で言う。
「レヴェリー殿も探しておるし、大丈夫でござるよ」 「僕も、探すの手伝うよ!」
コトハの手を握り、ピョンピョンと跳ねるアックスの言葉に、驚く。
「しかし…」 「人がたくさんいた方が、早く見つかるよ! それに、暇だし!」
最後がどうやら本音のようで、コトハはクスリと笑うと頷く。
「分かったでござる。よろしく頼む、アックス殿」
それにアックスは喜ぶ。コトハの手から離し、走り出す。
「なら、行動開始ー! 僕、外行ってくるね」 「えっ、あ、アックス殿!!?」
気付いた時には、アックスの姿は遠くに見えた。 そして、いなくなる。
「行ってしまったでござる……」
茫然としているコトハは重要な事に気付く。アックスは通信機を持っていない事だ。 つまり、シャンクスをこちらで見つけた場合、彼に連絡できない。
「……すぐに戻ってくる、でござるかな」
心配するが、少し経ったら戻ってくるかもしれない。そう思い、コトハはシャンクス探しを再開したのだった。
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