忘却した白い過去 2





うす暗い部屋の中。
幼い女の子が一人立っていた。
蝋燭の灯と女の子が手に持っているランプの光で、少しだけほんの少しだけ部屋が明るくなる。
女の子の髪は薄紫色。瞳は紫色。

『ね、あなたは、わたしのいもーとなんだよー』

女の子は誰かに話しかけていた。視線の先には彼女とは違う、もう一人の女の子に座っていた。足から先が暗闇にいるため、ちゃんとした姿は分からない。
しかし、姉妹のはずなのに、何もかも違っていた。
まず、座っている女の子がいる場所がおかしい。薄紫色の髪の女の子は鉄格子の外にいる。つまり、座っている子は中にいる事になる。中はというと、広くもなく狭くもない。必要最低限の物があるくらい。
そして、二人の服装も違う。格子の外にいる子はしっかりとした暖かい服装。それに対し、格子の中にいる子の服は酷くはないが、ボロボロだった。今は冬でかなり寒そうだ。だが、体は震えていない。


『えへへ。はじめまして、だよね!』

ニコリとした笑顔で嬉しそうに言う。格子の中にいる女の子は反応をみせない。
黙っている事に不満を抱いたのか、女の子は『しずかにならないでよぉ〜』と頬を膨らます。
その後すぐ、溜め息が格子の中から聞こえた。先程の女の子とは違う声が響く。

『べつに、私は……こまらない』

冷たい一言に紫髪の女の子は『うぅ…』困った表情をする。持っていた時計を見ると何故か焦り出した。

『……あ、そろそろもどらなきゃ! ここにいることは、ないしょにしてるの!』
『おこられるのなら、来なければいい。私は、一人でもへいきだし』
『ダメなの! 一人はさびしい、んだよ? それに、おねえさんだもん。いもーとを大事にしなくちゃ! これ、寒いからつかってね! たくさん、いれてきたんだ』

格子の隙間に無理矢理押し込むように、バッグを入れる。本当にたくさん入れてきたようで、床にボスンッと落ち、埃が舞った。バッグの口から何かか飛び出していた。
中にいた女の子は、その近くまで寄る。顔を顰めて、だが。
今まで、暗い所にいたので分からなかったが、彼女の髪色は青だった。そして、瞳は紫色。唯一の共通点なのかもしれない。

『……』
『私は――って言うんだよ。えっと、あなたは?』

薄紫色の女の子は問う。その質問に女の子は――青髪の女の子は――

『私は――』








視界が闇に覆われ、場面が変わる。
黒から赤の世界になる。
映ったのは、建物が焼かれ、炎が勢いよく燃えている光景。そして、人の死体。

血の海に立っているのは少女。
血まみれの体。
手に持っているのは、赤く染まった短剣。
その短剣を仰向けに倒れている女性の喉へピタリと止まっていた。

『ふふ。あはははははハハハ!』

狂ったように笑う少女。女性はそれを歪んだ顔で見ていた。

『くっ。お前は――を……すのか』

靄がかかっていて、誰か分からない。
でも、知っている。
少女は――いや、アタシは分かっている。誰なのかを。


『お前を――と思ったことはなんかないなぁ。だから他人だよ?……してやる!』


――お願い! 止めて。彼女を――
叫ぶ前に、持っていた短剣の刃は女性の喉へ躊躇なく刺した。



そして、少女は――





……………………




「……っ!」




ハッと目を覚ます。見えたのは薄暗い白い天井。
息が乱れているようだ。
起き上がり、窓を見ると外はまだ暗い。時計を確認すると、日が出る前だった。
左手を胸の前に持っていき、落ち着かせる。
呼吸が落ち着いてきようで、額の汗を拭うと「また、昔の夢を見た」と両膝を立て、そこに顔をうずめる。
数分そうした後、顔を上げ、ベッドから出る。
窓を開けると、涼しい風が入ってきて体を冷やした。長い髪は風に揺れる。

「忘れるなってことかしら。いつまでつきまとうのかしら。この悪夢は……」

表情は、哀しみに満ちていた。
分かっている。生きている限り、自分はこの悪夢に悩ませられるだろう。
助けてほしい。でも、出来ない。そもそも、自分のした事を他人が助けてくれるわけがない。
例え、そこにいた者でも――
自分は、実の姉や黒髪の青年。そして、金髪の青年に――何を求めているのだろう。

「やり直したくても過去の事だから無理よね……バカよね、アタシ。誰も助けてくれないのに……」

自嘲気味に言うと、窓を閉め、かけてあった服に着替え始める。終えると、部屋のドアを開ける。

「あんな夢を見た後だから、寝れないわ。ちょっと散歩でもしてこよう」

フォルテは何かポツリと唇を動かすと、部屋から出ていった。それは聞こえなかった。廊下から足音が去り、部屋は静かにただ朝日を待っていた。







mokuji



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