邪となる影 5
アックスは足を進めたまま、後ろを――カザン達が残った場所をチラチラと気にしていた。
「大丈夫かな、三人…」 「大丈夫よ。強いし。アックスは優しいわね」
彼の横に並びなが、彼に触れる。アックスは「そうだね。強いもんね」と同意し、後ろを見るのを止め、前を向く。 フォルテは彼から手を離す。
「着きましたわ〜」 「よく、見えないね……」
先頭にいたミウナが足を止める。 リゼルが言った通り、黒い霧が覆っており、視界が悪い。目を凝らしても、全く見えない。どこにあるのか分からない。
「で。どうしようか、これ……」 「壊すしか、ないだろう」 「うん。そうなんだけど……どうやって壊すの、ラ―グ?」
問い掛けに、ラ―グは頭の中で考え出した答えが「武器を使って?」と鞘を掴む。レオは溜め息を深く零す。
「武器って……いい案とは思うけどさ。あのさ、まず、どうやって壊すモノを見つけるのさ、ラ―グ? 手探りはキツイでしょ、これ」 「それは……」
レオを睨みつけると「じゃあ、どうするんだ」と、目で訴えてくるラ―グに、肩を竦ませる。
「…レオ。あれを使うしか…」 「だよな……」
ミウナがレオの服を引っ張り、コソコソと小声で話する。聞いていたラ―グは疑問に思う。 アレとは何か。 視線に気付いたのか、それとも思っている事に気付いたのか。レオは彼に苦笑いをするだけで、何も言わない。 どうやら、話す気はないようだ。イラつきはしたが、策があるならやってほしい。
「んじゃ、ちょいっとやってきますわ」
左肩、右肩の順に回し、再び武器である大剣を取り出す。肩に担ぎ、やる気なさそうに他の人に手をヒラヒラさせる。
「ん―? 僕も行く―?」
アックスの呑気な問いに首を振る。
「いや、いいよ。その辺、警戒しといて」
小さな、本当に小さな、誰にも聞き取れない声で「俺にしか今のとこ、出来ないし」と意味ありげなセリフを吐き出す。リゼルは不安そうな顔をする。
「き、気をつけて……」 「はいはい。ミウナ、よろしく」 「了解ですわ〜。レオもよろしくお願い〜」
頭を乱暴に掻き、気だるそうな足取りで黒い霧の中に入っていく。 姿が消えると、ミウナはつま先でコツン、と地面を叩く。 優しく。まるで、何かを目覚めさせるような――
「さぁ、お仕事ですよ〜」
声に反応し、地面から黒く細長いモノがたくさん現れた。 ミウナが扱っている武器である、コード――ケーブルとでも言えよう。エフェクトを使う時にも用いる。そのケーブルをよく見ると、先端に刃がついていた。 彼女が右手を上げると、その手に絡みつく。 まるで、接吻するかのように。愛おしそうに。 または、姫を守るかのように動く。
「お願いしますね〜」
そして、小さくな声音でこう言った。
「行きなさい。‘八咫’」
普段、閉じられている目がうっすらと開く。髪と同じ薄桃色の瞳。しかし、その瞳に光が映っていない。 彼女は目が見えない、両目とも。だが、彼女は見えている。いま、この景色も、人も全部。目の前の光景も。力を借りているからだ。 ケーブルは主の指示通りに黒い霧の中へ次々と入っていく。 雰囲気が変わったせいか、後ろにいる三人はこちらに視線を向けている。リゼルは何故か驚く事もなく、警戒している。
「皆さん、お気になさらずに〜。見張っていて下さい」 「う、うん! 分かった!」 「警戒しましょ!」 「……」
アックスはまだ気になっているようで、横目で彼女をチラチラ見つつ、辺りを見張っている。彼らはミウナの武器を知っている。しかし、いつもと違う感じに驚いているのか、敏感になっていた。 自分の仕事を始めた三人に背を向け、ミウナは霧に視線を合わせ、呟く。
「レオ、無事で」
ケーブルは、彼女の言葉に反応する事はなかった。
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