戦いの号火 2
「それで?」
前髪をうるさそうに掻きあげているのは、アークフォルドの主であるオルガ・クー・エルジェンヌ。彼はイスに腰掛け、前にいるユアを見上げ、そう問い掛ける。 ユアは面倒くさそうな顔をして、答える。
「どーもこーも、普通に帰ってきただけっすよ。オルガさん?」
部屋の中は多少明るい。しかし、カーテンを閉めたら暗くなるだろう。 オルガの前にあるランプは、ついているが今はあまり意味がない。 ユアの返答に片眉を上げる。
「……帰ってくるのはいいとして。私はそんな事を聞いているんじゃないぞ、ユア?」 「へいへい。分かってますよ。少女はロラ、と名乗っていましたね。シャンのせいで、詳しく聞けなかったけれど――」 「お前の場合の詳しいは、違う意味だがね……」
悔しさを滲ませるユアに、溜め息をつく。ナンパの類だろう。 懲りないな、と呆れつつ彼の言葉に耳を傾ける。
「……それと、」
ユアは一瞬切り、話し出す。
「あの方がどーとか言ってましたっけね」 「あの、方……?」
その言葉に反応を示したオルガ。
「名前は言ってなかったけれど。オルガさんも分かんないっすか?」 「いや……」
それは肯定なのか否定なのか。 どっちつかずの返事に、ユアはやれやれと肩を竦ませる。 聞いても、濁されるだけだ。
「まーいいんですけどね。どうせ、話す気なさそうだし?」 「そういうわけじゃ……て、お前は分かってるじゃないか」
「……ハハ。分かっているけど、解ってないですよ。いいっすか、オルガさん――」
ユアは机をバンっと片手で強く叩く。
「――俺様は、いや、俺は。アンタとは違うんだ。人間なんだ。こうだとしても、正真正銘の人なんだ。全て、分かるわけねーよ」
オルガを睨みつける。彼は特に臆する事なく、片目につけているモノクルを外し、弄ぶ。
「私だって、人間ではあるぞ? 半分は」 「半分、ねぇ」 「それと、私は当事者ではない。私は、アイツとは違う」
間を空け、胸の中にある一言を吐き捨てる。
「だから、一緒にするな」
再び、モノクルをかけ直し、視線をユアに向ける。 瞬間、彼の表情が引きつる。オルガの瞳は今までと雰囲気が違っていた。怒っているような憎悪にも似ていた。 しかし、目を伏せ、オルガはイスに寄りかかる。
「まぁ、いい。ありがとう、ユア」
先程の気配はどこにいったのか、分からなくなるくらい優しい笑みを浮かべる。ユアはホッとすると、部屋を出て行った。 扉の閉まる音が部屋に響く。オルガは無言のまま瞼を閉じる。
「たく。こういう事になるのか。面倒だな」
頬杖をし、悪態をつく。目を開け、天井を睨む。
「どいつもこいつも。アイツもそうだし、コイツもそう。何したいんだか。巻き込まれる身にもなってくれよ」
そして、
「なぁ、聞いてるんだろ?」
天井を見たまま、誰かに問い掛ける。 しかし、部屋にはオルガしかいない。だが、気にせずに話す。
「聞いてるよな。気にしてたもんなぁ。ここにいなくても、聞いてる、そうだろ?」
何がおかしいのか、クスクスと笑う。 ここにいない、しかし、聞いてるであろう相手に告げる。
「どうやら、ロラって子が来たようだぞ? アイツも何をしたいのか。分からんな。まぁ、動いたようで」
最後は面倒そうに吐き捨てるように、言葉を発した。
「私は、やる事をやる。別にどうでもいい……とはいっても、特にないが。さて、少し寝るか……」
カーテンを乱暴に閉め、ランプの明りを少し弱める。辺りは、ランプの明り以外、光を差さない。暗くなる。 そして、イスに座ったまま、眠りについた。
←mokuji→
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