△ ロスマリナス 05
その顔がやっとはにかむように笑う姿が見れたのはそれから少ししてのことだった
そいつの飼い馬とは知らずに地下街近くで彷徨っていた迷い馬を見つけた
面倒ごとばかり遭遇するなと正直思う
が他の兵士には近寄らず何故か自分から離れないくらい懐いて来るので他に任せることも出来なかった
仕方なく適当に馬に見覚えがある町民がいるか駐屯兵に調べさせたところ、逃げ出したと思われる厩舎が街はずれで見つかり
更にそこの管理者に連絡を取らせたところあの女が持ち主だと判明したというわけだ
連絡を受けたあの女が駐屯兵団駐在所を訪ねてきた
馬と対面したそいつは見たことがないくらい柔らかい表情で馬に抱きつき大袈裟なくらい喜んでいたように見えた
…そんなに大切な馬なのか
初めて見た笑顔はいつもの冷たい感じを微塵も感じさせないくらい彼女を少し幼く、愛想良く見せた
それがやっと若いはずのその女を年相応に見せるくらいだった
自分が見ているのが分かるとその笑顔がまたぱっといつもの不愛想な表情に戻る
なんてやつだ、と内心思いながら見ていた
それから壁外調査をこなしたり新しい班員を訓練したりして、いつの間にか何ヶ月か経過していた
いつだったか王都にて次回の壁外調査の意向を決めて本部へ戻ろうとする途中、あの道でまたあの女を見つける
庭先から俺を見つけて挨拶の代わりなのか、
笑っているのか分からないくらいほんの微かに、
少し戸惑ったようにだが微笑むようになった
馬の速度を少しだけ弱めると
庭の柵越しにこちらを見上げる
そいつは近く壁外調査に出るのを
どこかで聞いたのか、
外に行くんですか、お気をつけてと小さく呟いた
そういえば
こいつの恋人は壁外で死んだんだったか、といつか聞いた話を思い出した
ああ、と短く返事をして馬の腹を促すようにして蹴る
こちらを見上げる瞳は今日は緑がかっていた
彼女の色素の薄い瞳の色は着るものや天気によって変わって見えるようだ
遠ざかる彼女の気配を感じながら、柄にもなく
なんだか高ぇ宝石みたいな目玉だな、
なんて考えたがそんな思いもすぐに立ち消えた