△ ロスマリナス 03
もう一度その姿を見たのは王都に招集された時だった
ほとんど日も暮れた都の道を一人馬で駆ける
人通りも少なくなった大通りの手前で、何やら道の往来で停まる一台の馬車があった
どこぞの貴族がくだらない遊びでもしているんだろうと思ったが、
御者が二人掛かりで一人の女を無理矢理乗せようとしているのが見えて
少し思案した後小さく舌打ちした
思い切り抵抗する女に多少手こずる二人の身なりのいい男
───オイ、
穏やかじゃねぇな
そういうのは人目につかないところでやれよ、と低い声がもう暗い夜道に響く
はっと振り向く驚いた三人の顔
二人の男は苦い顔、それともう一つは…
驚愕しながらも困惑したような女の表情だった
ダークブロンドの髪に少し気の強そうな瞳が
今日は少し陰っている
見た顔だな、と思う
…あの女だ
そいつは息が上がった状態で、半ば睨みつけるようにこちらを見つめる
…助けてやるってのにその顔か?
声を掛けてしまった手前、仕方がないので女をその二人の手からもぎ取ると無理矢理馬に乗せてその場を走り去る
街外れの家の近くまで来ると、ここでいいです、とやっと静かに口を開いた
初めて聞くその声は顔の印象とは違って伸びやかで繊細だが、それでもやはり突き放したような言い方だった
馬を停めると逃げるようにその背から自分で飛び降り、家の方へと駆けて行った
礼も言えねぇのかと一瞬腹も立ったが、言い寄ってくる奴が絶えないというあの日の無駄話を思い出した
無理矢理連れて行かれそうになる女の気持ちなど考えても分かるはずもない
リヴァイも無言で女が走り去った家の方角を見やり、それから馬首を返した