△ アリビンゲーブ 47
兵団本部の裏手まで来ると、
雨は既に細かい霧状のものになっていた。
いつもなら濡れる事も泥が撥ねる事も避けるところだが、そんな事に気を回している余裕も無い。
女に対して相手がどう出るかが予測出来ない。
捕まえてどうするのか。
暴力に訴えるか、
それとも−−−。
チッ、と舌打ちをする。
霧雨で靄がかかったように視界が悪い。
辺りを見渡すが、本部裏手にあるのは厩舎ぐらいだ。
壁外調査の後なので馬は戻っているが、どの厩舎に人気があるかなんて外見からは分からない。
一つ一つ回る暇は無い。
ふと気が付くと、いくつも並んだ厩舎の更に奥に、木々に囲まれた建物があるのが目に入った。
滅多に使われない物置小屋だ。
扉は閉まっているが、そこには微かに泥が跳ねている。
雨が降り始めてから誰かが入ったのだろう。
…決まりだ。
このタイミングで、人気のない物置小屋に人が出入りするとはな。
そのまま脇目も振らずにその小屋へと急ぐ。
雨が降り始めてから然程時間は経っていない。
だが。
…アイツは壁外からは無事に帰ってきていた。
その姿を確認している自分にも驚いたが。
アイツは外で生き残れる力は持っている。
しかし、女の力では男に適うはずもない。
ぬかるんだ道を抜け、閉じられていた扉を左肘で勢いよく押し開けた。