△ アリビンゲーブ 44
−−−−−ポツリと雨粒が地面を打つ。
朝は快晴だったが、雲行きが怪しくなってきたのでそろそろ降り始めるかと思っていたところだった。
ポツポツと窓を打っていた粒が次第に量を増していき、次々と水の線を残していく。
壁外調査が終わった後で良かった。
気温が急に落ちたので温かい飲み物が体に沁みる。
それを口に運びながらエルヴィン団長は最新の報告書の頁をめくった。
内容は最近兵団内でも噂になっている憲兵団のことだ。
初めに文句をつけてきたのは向こうだというのに、こちらがそれに反論すると予想もしない返しを投げてくる。
上層部だけならばこんなにも手間が掛かることは無かったが、こうも憲兵団兵士が行動を起こすとは考えていなかった。
こちらの兵士に手を出してくるなど前代未聞だが、それ程までに憲兵団兵士の鬱憤と思いあがりが膨らんでいるという事なのだろう。
…兵士同士の争いならば目を瞑っていたが、
今回はそうもいかなくなった。
気に入らない調査兵員に目を付けては弱みを握り、
地位がある者でもあわよくば失脚させようと目論んでいるようなのだ。
対巨人でも対策を練らなければいけないというこの時期に…。
がちゃり、と音がしてエルヴィンは顔を上げた。
「エルヴィン…何か進展はあったか?」
「リヴァイか」
リヴァイの手には壁外での報告書が握られていた。
ここに来るまでに立体起動装置を所定の場所に戻し、報告書を回収してきたのだろう。
部屋に入るなり空いていた椅子にどっかりと座り、足を組む。
彼を壁外で別行動させたのには勿論理由があった。
あろう事か兵団内に憲兵団と通じている兵員がいるとの報告があった為だ。
どういう思考回路か理解に苦しむが、調査兵団の成果を著しく貶め、大損害を被らせて兵団の運営自身を危うくするという目的を持った輩がいるようだった。
「ああ、やはり今日君に付けた班の中に該当者がいたようだ」
「向こう側の内通者は分かったのか?」
「…我々に出来るのはここまでだ。
後は上に任せよう」
話をしながら書面に目を走らせていたリヴァイが、その言葉を聞いて目線だけエルヴィンへと向けた。
「お前…それじゃぁ、いつまでかかるか分からないって事か。」
リヴァイらしからぬ感情がこもった声に、エルヴィンは眉を上げた。
「実行部隊の優先は壁外調査への妨害を無くす事だと知っているだろう。
後は憲兵とのやりとりになる。
…リヴァイ、お前も身辺を嗅ぎ回られた。……何か他に急ぐ理由があるんじゃないのか?」
今度はリヴァイが目を逸らす方だった。
「は……馬鹿いってんじゃねぇ」