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 カトレア 07

「今日出来た傷だな?」

「うん、多分…枝かどこかに引っ掛けたみたい…。
小さい傷だからさっきまで気付かなかくて」


私の言葉を聞いて、リヴァイはその小さな切り傷に指を這わせた。
ぼそりと、「さっきはこれを見てたのか」と呟く声が聞こえる。

その指が斜めに入った傷に触れて、その後に二、三箇所と触れていくのを感じて他にも傷があったのかと思う。


その感触に思わず息を詰めた。

−−−痛い。
はずだよね?


ちくりと痛いのは嘘じゃない。
だけどそういう風に熱を分けるような触り方をされると、くすぐったいような、変な感じになる。


「……枝、じゃねぇような切り口だな。
どこかで木製か金属製か、鋭いものにでも触ったか?」



金属。
それじゃなくても、鋭く尖ったもの?


……ガラス?


足元で静かに砕けたグラスを思い出した。

すぐ近くに落ちたその破片がどこに飛んだかなんて見えなかったけど。



「…あ。
マルクスに貰ったカクテルのグラスかも知れない。
落として割っちゃったから、もしかしたらその時に、」


「−−−カクテル?」



普通に。
ごく普通に思い当たったことを言っただけだったのに。

言葉を遮るようにリヴァイの声が聞こえて口を噤んだ。


暗い中で黒い瞳が底光りする。
それが少し嫌な感じに光った気がして怯んでしまった。

言わない方が良い単語だったみたいだ。

リヴァイはたっぷりと間を置いてから、どこか納得したような声を出した。


「飲んだのか。
そうか、道理でお前の体温がいつもより高いはずだな?」

「え……た、体温?」


そう言われて椅子に捕まる片手はそのままにして、もう片方の手で自分の頬や首に触れてみると確かにいつもより熱い、かもしれない。

身体が火照ると思ったのはそのせいだったのか。

お酒じゃないというようなことを言ったマルクスの言葉を思い出した。
いや、お酒とも呼べない、だったかな。

殆どジュースだと思っていた自分に呆れてしまう。
少なくてもアルコールが入っているんだ、ちゃんと確認すればよかった。


恐る恐るリヴァイを見上げる。
その双眼には熱っぽさが戻りつつも、どこか呆れたような意地悪そうな色が浮かんでいた。


そんなリヴァイを見てつい逃げ腰になるけど、身体を引こうにもがっしりと足首を掴まれていて叶わない。


「与えられたものは何でも受け取るのか?」

「何でもなんて……」

「現に飲んでるだろう。
服を取られて酒も飲まされ、今も鍵を掛けずにいたな?
お前は無防備だと何度も言ったはずだが」



そこまで言われて、鍵のことをすっかり忘れていたことを思い出した。

なんだか私がすごい考え無しの頭が足りない子みたいに聞こえてしまう。
悔しいくらい反論出来ない。

・・・実際それらが事実なこともあるし。

こうなったのは私のせいなんだけど。
それは分かってる。

だって、でもどうすればよかったの?

じゃあお手伝いさんにドレスを突き返して、このドレスは嫌だから兵服を返せとか言えばよかったの?
マルクスにしたってあんなに酒癖が悪いなんて知らなかった。

どの場面でもなにが正解でなにが間違いだったのか分からない。

無防備無防備って、具体的に何をどうすればいいの?


どうやって弁解しようか思案しながら俯くと、掴まれたままの足首がふと少し持ち上げられた。

たいして大きくもない傷をもう一度確認してリヴァイは小さくため息を吐いた。


「また傷を作りやがって……」


微かな吐息が足に触れて背筋がぞくりとした。

こんなに呆れられてるのに、今度はその声色に間違いなく心配が含まれているのが分かってしまった。

場の空気も読めない私の心が少し浮き上がってしまう。
素直に謝れもしないのに、彼の気持ちが見えた途端に嬉しくなる。


うう。
なんで私ってこんな単純なんだろう……。




「っ!?」



その時、突然露わな足にぬるりと温かなものが触れて、全身が爪先までびくりと強張った。


え、舐め…っ!?


膝下にあるその傷に彼が音を立てて口付ける。

リヴァイの唇が、何度も膝下の辺りに口付けては不意に膝まで上がったりする。

それでもそれ以上には行かず。

ちらりと舌が覗いたかと思うと舐めとるように柔らかいものが傷口を這う。

唇と舌と吐息が交互に足に触れていった。

この感触が。
暖かくて、生々しいこの感触がどこまでも淫らに感じる。

呼吸が乱れ咄嗟に手で口を押さえた。


「ん…っ、っ」


舌が触れるたびにどんどんと力が抜けて行く。

リヴァイの行動にも、自分の身体の反応にも戸惑ってしまう。
身体の中で何かがせり上がってくる気がした。

じわじわとあの感覚に侵食されて、忘れていたはずの疼きがまた身体中に走り出した。



どうしよう。

どうしよう、こんなに気持ちいいなんて。



唇が肌に触れ、気付けば軽く舐められて。
吐息が漏れていき、声が出そうになるのを必死で堪えた。


執拗に小さな切り傷を舐め溶かそうとする彼の手に自分の手を重ねる。
小さい傷でもそんなに舐められたら血が滲むはずだ。

リヴァイに血を舐められるなんてそんなの汚いし、恥ずかしいし…!


物凄くそれが気持ちいいなんて言えるはずもなく、でもそのはしたない心地から逃げ出したくて、その思いのまま彼の手を止めるように強めに握る。


「…っリヴァイ…痛、い…から……やめて…」


だけど顔を上げた彼の瞳はやっぱり意地悪そうに細められただけで。

その仕草は少し楽しげにも見えた。


「…そうか、痛いか。
お前の身体はそうは言ってないがな」


−−−!


隠しても見透かされていると思うと、かっと一気に体温が上がる。
リヴァイはそのまま止めることもせずに膝を伝って腿の方まで唇を這わせた。


「ぁ…っ…!」


その動きのひとつひとつに身体が震えて、それがリヴァイの言う反応なのだと自分でも分かるけど止められない。

抗おうとしてもゾクゾクと腰から這い上がる甘さに耐え切れそうもなかった。


無理矢理自分で震えを押さえて、でもそれがリヴァイにすぐに伝わったようで次の瞬間には腿を走る刺激が一層強く甘くなった。

内腿の柔らかい部分に舌を這わせ、時折その柔らかさを確認するように軽く歯が立てられて。

充分すぎるほど翻弄される。

頭と身体の芯が溶けていく心地と、じわじわと快感が大きくなっていく。



だけどその手と唇は止まる気配がなかった。

彼の手のひらがドレスの下に滑り込んで下着ごと外そうとした時には、咄嗟にその手を掴んだ。


「あっ、や、やだ…!」


「エマ、今日は嫌がっても駄目だ…暴れるな」


リヴァイが私の脚の間に体を滑り込ませて、跪くように屈み込む。
抵抗する私の両手が、その肩と髪の毛にやっとしがみついた。

だけどその体を押し返す前に、抵抗も虚しく一瞬腰を持ち上げられて。

ぐっと掴まれていた右脚を大きく持ち上げられると、自分では選ばないような繊細な下着が脚を滑り落ちるのを感じた。


腿を押さえつけたまま内腿に舌を這わせたリヴァイは、そのまま脚の間に身を埋めてーーー。


え、うそ……っ


「ッ…ーーー!!」


その柔らかさがぬるりと身体の中心を舐め上げて。

びくっと両脚が震えた。


「…リヴァイ……!や、だ…そんなところ…!」


必死の抵抗も懇願も、その度に刺激が一瞬強くなるのですぐに甘い喘ぎに飲み込まれてしまう。

大きく震えてからは、抗えない感覚に身体は小刻みに痙攣するように反応を見せる。

リヴァイの肩あたりのシャツを握りしめて、与えられる性急な愛撫にどうにかなってしまいそうだった。


「…ッ、ぁ…!」


それが落ち着いたと思ったら小さく口付けるように吸い付いて、それから水気を含んだ甘い刺激が継続的に与えられた。


「ぁ…あ…っ…ん、−−−!」


指とは違う生暖かさが一気に快感を連れてくる。

押し潰すように敏感な部分に触れられても、それが柔らかい舌だと痛みなんかどこにもない。


外の皮膚を吸われて、中の壁に舌が出入りする。
この快感を押し殺すなんて不可能だと思った。


水音が増していき、
身体から何かが絶えず込み上げて、耐えきれずにこぼれて行く。


……良い場所ばっかり。

なんでそこが気持ち良いって分かるの?


逃げたくなるほど、しつこいくらい力が抜ける場所を探られて。


脚の間に身を埋めるリヴァイと、絶えず溢れる淫らな音にどんどんと目の前が白んでいった。


腿の内側も、心臓も、身体中がどくどくと脈打つ。
与えられる刺激を抱え切れるだけ溜め込んで、それが今にも崩壊しそうだった。


逃げ切れない程の快感に、腿と腰を押さえつけるリヴァイの手からどうにかして逃れようとしてしまうけど。


……彼がそれを許す程もなくて、更に身体を押さえつけられ、痺れるくらいに強く隠れていた皮膚を舌で刺激された。


「…だめ…ほんとに、それっ…だ、め……!」


力強い腕が腰と腿を押さえつけて、限界を迎える時にも彼の舌は一番敏感な部分から離れようとはしなかった。

快感を噛み締めるように唇を噛んで、目からは涙が滲んだ。


もう、だめ……


「…!!!」


一際大きくて甘い電流が頭から足先まで突き抜けて、久々に与えられるその波に呼吸を奪われた。

その感覚の強さに頭からつま先まで全身が引き攣る。

この頭がふわりとどこかへいくような感覚。
一瞬何もかもがどうでもよくなってしまう。


ヒールを履いた爪先まで張り詰めて、大きく与えられた波を味わってから漸く身体の感覚が戻るのを感じた。

呼吸が追いつかないほど息は荒くなったままで、心臓はまだどくどくと聞こえるほど鼓動を打っている。




汗ばんだ腰に指を這わせたリヴァイはその様子を間近で確認して、もう一度水音を立ててから顔を離した。

卑猥な音が響いて、彼は水滴に濡れる唇を無造作に親指で拭った。

椅子と彼の肩に捕まっていたはずの両腕は完全に力が抜けてしまい、不意にバランスを崩す身体が、その前に伸ばされた腕に抱き留められる。


頭も体もまだ動かせないエマは、そのまま自身を腰から抱き寄せる彼に捕まることしか出来ずにいた。

浅く胸を上下させて。
瞬きさえ覚束ない。

気怠いような、強い波が通り過ぎた身体は指一本動かすことすら億劫だった。


リヴァイはそんなエマの額と頬にあやすように口付けると、上気したその表情を眺めつつ、片手を柔い肌に這わしてから中指をゆっくりと水が溢れる壷に差し込んだ。


「…っ…」


まだ全ての神経が過敏な身体にはその感触が強いくらいに感じて、エマの身体はもう一度ぴくりと仰け反った。


奥まで進むことはせずに、その指はぬらりと溢れ出す水滴を絡めては遊んでみる。

熱いくらいのその温度はやはり先日とは少し違くも感じた。


酒のせいなのか、あの男が与えた物だと思うと胸糞が悪い。
酒か、・・・それとも。


耳元に唇を寄せて息を掛けると、それだけでも肌が揺れる。
止めてやることはせずにわざと強めに囁いてみる。


「……嫌がってた割には濡れてるじゃねぇか。こっちの方が好きか?」



  


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