△ ナカロマ 88
水の中にしゃがみ込んだので今は見えないはずだけど、それでもさっきまで誰もいないと思って水から体を出していたのだ。
羞恥で体を隠すように自分を抱きしめる。
いつからいたの…!?
み、見た……?
「お前もここを知っていたのか。
…悪くねぇだろう」
え…、えっ!?
何でそんなに普通なの…!?
そう少し放心してから、彼の今までの態度を思い出す。
森で助けてくれたときも少なからず身体は見えていたはず。
それでもリヴァイの私に対する態度は何も変わらなかった。
俺は見てないからな、なんて一言もあるわけもなく。
そんな彼に、あのとき見た?なんて聞けるわけもない。
あの時も、今のよう「何とも思わなかったから態度にも出さなかった?
私を子供としか思っていないから、裸を見ても何とも思わないってこと…?
見られたらと思うと死ぬほど恥ずかしいのに。
私はリヴァイのことが好きなのだから、それは尚更。
…そんなにリヴァイには異性として意識されてないってことなの…?
確かに人様に自慢出来るような肉体は持っていないけど、それなりに身体は成長はしたと思ったのに。
彼にとってはそれも意味がないもの。
…気にも、しないものなら。
言葉を失ったままの私を置いて、リヴァイは岩場を降りてきた。
その姿はいつもの兵服を着ているが、足元のブーツは既に脱がれている。
その手には脱いだジャケットが握られていて、そのままリヴァイは考える素振りも無く自分のシャツのボタンに手を掛けて上から順に外していく。
え、ま、待って。
うそでしょ?
「リヴァイ……?リヴァイが入るなら、私いま出るから…!」
そう言ってみるけど、聞こえていないのかそれでも衣服を脱ごうとしているのが分かって、慌てて彼に背を向けた。
ばしゃん、と水が撥ねる。
焦って振り向いたその瞬間に、満足に動かない左の足首が水底の鋭い岩に触れて、鋭い痛みが走った。
「あ…っ!」
思わずその場で自分を支え切れなくなり、水の中でバランスを崩した。
一際大きく水が揺れる。
「!」
ばしゃ、とすぐにリヴァイが湖の中に入ってくる音がして慌てて身を起こした。
水の中で胸を押さえて、思わずこちらへ駆け寄るリヴァイへ向き直った。
「リ、リヴァイ、ごめん、大丈夫、ただ滑っただけだから!こっちに来ないで…!」
いくら水の中で見えないとはいえ、裸の状態で普通に彼と話せる気がしない。
月が隠れていればいくらか隠せるのに。
何の意地悪か月明りは先程から眩しいまま。
「……何言ってる。足が痛むのか?ほら、立て」
すぐ近くまで来た彼の手が伸びて、私の腕を掴んだ。
た、立つって、ここで…?
そんなことしたら見えちゃうでしょ…っ
リヴァイの方が何言ってるの…!
思わずそんな彼を見上げて、シャツを脱いだ彼の露な上半身が目の前に見えてどきりと胸が騒ぐ。
彼はまだズボンを履いたままで、そのまま水の中に入ってきてくれたようだ。
白い兵服がかなり濡れてしまっている。
…潔癖なリヴァイはこういうの嫌がるはずなのに。
不意に彼の手に力が入って、強引にでも立たそうとしているのが分かった。
「リヴァイ!?や、やだ…っ」
意識しすぎだと思われても構わない。
こんなの冷静でなんていられるわけない。
いつもと違って本気で対抗するけど、リヴァイの力に敵うわけなんかない。
強い力に引っ張られるまま、ばしゃ、とその場で引き立たされる。
「っ!」
はっと自分を見下ろすと、月明かりに照らされた無防備な程の肌が見えて慌てて掴まれていない方の腕で胸を隠した。
心臓が、爆発しそう。
耐え切れずどうにか逃げようととにかく体を自分の方へ引き戻すけど、そんなものリヴァイには通用しないのも悲しいくらい分かっていた。
「お、お願い、放して……」
懇願するように頼んでも彼の手は緩まない。
そればかりか彼の体温が更に近づく。
それにびくりと身構える私に、大好きなあの低い声が聞こえた。
「エマ、…逃げるな」
耳元で囁かれて、動けなくなった。