△ ナカロマ 85
月が雲に隠れてから腿のあたりまで隠れるくらいの水嵩の場所から水に入り、上下の下着を脱ぎ取り近くの岩場に移動させた他の服と重ねて置いた。
最後に、迷いに迷ってから身体を覆っていた最後の一枚のブランケットもそこに重ねる。
外でこんな無防備に服を脱ぐなんてこと、生まれて初めてなんじゃないだろうか。
しかもこんな山の中で。
なにか獣でも出てきたらと思うと少し怖い。
ブレードの一本でも持ってくればよかったかな。
ちらりと月で辺りが一瞬明るくなり自分の身体が嫌でも目に入って、不意にまた恥ずかしくなった。
ひゅう、と不意に冷たい風が素肌を撫でて、思わずばしゃりと水に身を沈める。
やっぱりじわりと温かい。
水なのか、お湯なのか、温度は丁度その中間のようだ。
ソニャはお湯みたいだと言ってたな、と思い出したが、日によって違うのかもと思い直した。
水の中で手足をそろそろと伸ばし、まだときどき痛み出す左足もゆっくりと動かしてみる。
くるりと水の中で回っても、手足がなにかにぶつかることもない。
水の中だと難なく立てるのにな…。
急に解放感に包まれた気分になって、思わず笑みが零れた。
両手で掬った水を頭から掛けて、大分伸びた髪の毛をそのまま巻き付けるようにして片方に寄せる。
いつもはゆるくウェーブしている髪は、水分を含むと実際より長く感じた。
長い方が大人っぽい、と憲兵団にいるときの友人たちに言われて、それからは伸ばすようにしているので何となく嬉しくなる。
月がまた長い雲に隠れたのでそれをいいことに湖の中を少し歩いてみた。
漆黒の夜の中。
水の抵抗を受けながら歩いていくと、自分が起こすさざ波が波紋を広げていくのを感じる。
月の光が届かない湖は真っ黒い塊に見えて少し恐ろしくもある。
月明りの下で見えたあの綺麗さを思い浮かべた。
ところどころ浅いところもあるが、暗い中で立ち上がる分には自分でも見えないので恥ずかしさはいつの間にか薄れていた。
湖の奥の方まで行くと、足が付かないほど深いところもあった。
少しだけ深いところに移動しても、流れがないので全く怖く無い。
そちらの方はなんだか更に水温が温かい。
深い方が地熱が高いんだろうか。
向こう岸までたどり着くとまた足が付くほどの浅瀬になり、そちら側は確かにソニャが言った通りお湯に近い温度だった。
…なるほど、と一人で納得する。
ソニャはこちら側から入ったのか。
注意深く水面を見ていると、ふわふわと所々下から持ちあがっていることに気付く。
その場所を泳いでみると、足に多少熱めの水の湧きあがりを感じた。
下から絶えず温泉が湧きだしているようだ。
だけど湧いているのは真ん中あたりだけのようで、私が入ってきた方に向かって水温が低くなっている。