△ ナカロマ 79
左足は、また折れたわけではないから心配しなくていい、とあの医師に言われた。
そんなにひどくなっているわけではないが、炎症が起きるとまだ少し痛みが続くこともあるらしい。
とりあえずもう全体重をかけないように、と注意された。
私はカリーナ分隊長に会おうとして本部に向かっていた。
リヴァイから旧本部へ移動する話は聞いていたけれど、グンタさんとエレンに聞くまではそれが明日だとは知らなかった。
…また、少し会えなくなる。
リヴァイにはどこかへ行くときには必ず声を掛けろと言われていたが、調査兵団の兵士長を気軽に呼べるわけない。
予期せず本部の一階で鉢合わせしたときは内心やばい、と思ったけれど、ペトラさんと二人きりで作業する姿を見て、図らずも少しむっとしてしまう。
素直に謝る気なんて消えてなくなってしまった。
こちらも少し反抗的に、エントランスの階段の上のリヴァイを見上げる。
仕事だって、分かってる。
二人の関係が何でもないって分かったのに、どうしても気になってしまう私は心が狭い。
「お前は何の用があるんだ」
「…人に会いに来ただけだよ、すぐ戻るから心配しないで」
こちらに歩み寄ってくるリヴァイに、つい素っ気なくそう答える。
リヴァイは仕事中なのだ。
少し嫉妬してしまうけど、忙しい彼を呼ばなくてやっぱりよかった、とも同時に思う。
同じく本部に用があるというソニャとも後で落ち会う約束をしていることだし。
「…なに怒ってる」
こんな子供っぽい感情を、まさかリヴァイ本人に曝け出すなんて出来ない。
なんで気持ちを見透かされるのがこんなに恥ずかしいんだろう。
「お、怒ってない。リヴァイも仕事に戻って、私も、もう行くから…!」
「お前、階段を上がれるのか」
「体重かけないようにするから、大丈夫!」
赤くなりそうな顔を隠すように早口で捲し立てる。
松葉杖を持っていない方の手でリヴァイの背中を押して、自分も反対方向へと歩き出す。
顔を顰めたリヴァイと一瞬だけ目が合うけれど、それ以上は何も言われず彼も作業に戻ったようだった。
それを確認して、ほっと小さく息をつく。
あの資料室での日から、リヴァイを想うと胸が痛い。
時々きゅう、と掴まれたように胸が苦しくなる。
意識するだけで心臓が騒ぎだすのに、顔を見た日にはどうしていいか分からなくなる。
……どうしよう。