△ ナカロマ 78
「皆さん、移動の準備ですか?」
本部までの渡り廊下をエマに歩幅を合わせて並び歩く。
先ほど荷物をそのまま道端に放って来てしまったが、まだ運び出す物があるのも事実なのでグンタとエレンは目配せをしてから自然とエマを本部へと送ることになった。
「ああ、結構荷物が多いんだよ」
「明日出発なんで、今日中に掃除と片付けを終わらせなきゃなんですよ」
「明日、ですか…。」
旧本部はどこにあるのか、どのくらいの期間そちらにいることになるのか耐え切れず質問するエマは、兵長の心配をしてるんだろうというのは明白だった。
こんなに想われるなんて兵長も隅に置けない。
近くで見ると花が咲いたような美人だな、とグンタは思う。
表情こそあどけないが、整った目鼻立ちは黙っていると大人っぽさを際立たせる。
以前は可愛らしい子だと思ったのが嘘のようだ。
あの兵士達のように彼女の見た目に惹かれるものも出てくるだろう。
兵長はまだしっかりと手を出しているわけでもなさそうだから、この先、周りにも関係を知らせていかないと大変そうだな、と勝手に数年後のエマを想像して兵長を憂いた。
でもきっと、この子をこんな風に咲かせているのも他でもない兵長なんだろう。
隣の芝生は青い、とはよく言ったものだ。
恋愛したいと思っているわけでもないのに、人のものだと思うと余計に魅力的に見えてしまう。
階段を上がるエマを一瞬支えようとして、グンタは本部がもう目と鼻の先ということに気付いた。
静かに、エレンに声をかける。
「エレン、距離を取れ。あまりに近いと俺達まで睨まれるかもしれない」
「…!」
そう言われて瞬時に理解したエレンは、倒れそうになったら助けられる位置で歩いていた距離を自然に離れた。
そうして付かず離れずの距離を保つと、本部へと足を踏み入れる。
開けた一階部分のエントランスにその理由があった。
彼はペトラと共に移動用の備品を確認しているようだった。
その眉間が、エマの姿を見て大きく寄せられる。
「……俺を呼べと言ったはずだが」
「…だって、リヴァイはいそがしいでしょ。
グンタさんとエレンに助けてもらったから大丈夫」
その一言に、腕を組んだままのリヴァイは少しばかり後ろに下がっていた二人を見る。
「ほう……そうか。悪かったな、二人とも」
礼を言っているはずなのに、その口調は不機嫌そのものだ。
「い、いえ」
「あ、それじゃあ俺達は荷物があるんで!」
そそくさと退散した二人は、積荷を足早に運びながら小声で困惑した。
「グンタさん。エマさんにあまり近付いてないし、助けようとしたのになんで俺達睨まれたんですか…?」
「色々とはっきりするまで兵長も複雑なんだろうな、きっと。
もう少し辛抱して見守るしかなさそうだな」
「は、はぁ…。」
間の抜けた返事を返すエレンには、リヴァイとエマの関係も、そのあたりの詳しい事情もまだよく理解出来なかった。