△ アリビンゲーブ 38
実感もないまま次の日の朝を迎え、いつもと同じように身支度を整える。
違うことと言えば自分たちの心境と顔つきくらいだ。
何故人はまだ見ぬ内から恐怖するのだろうか。
案外外界に行ってしまった時の方が気楽かもしれない。
馬に跨り、通達された通りに配置に着く。
隊列の先頭には主力部隊が位置についているはずだ。
団長と、兵長も…。
何とかしてその後ろ姿だけでも見えないかと思ったが、彼まではとてつもない長い道のりだ。
彼と私の身分の差を暗示しているようだった。
いよいよ扉が開けられ、外へ向けてと調査兵団が走り出す。
前の兵士に続いて馬を走らせると、三つ編みが肩で揺れた。
ふと壁を見上げ、いつもの風景に違和感を感じた。
扉の周りを固めるのは駐屯団のはずだ。
それが、見慣れた顔ぶれと異なっている。
すれ違いざまに開閉の警備を担当している兵士の胸元の紋章に目をやると、いつもの薔薇ではなくユニコーンが見えた。
そのまま目線を上げると、こちらを冷ややかに見下ろす男と目が合った。
黒髪に、冷たい茶色の目を持った兵士。
まさか、私を見ていた?
一瞬の事だったので気のせいかと思ったが、何故か悪寒が走った。
『−−−憲兵団には気をつけろ。』
ぎゅっと手綱を握る腕に力を込める。
今考えるべきなのは、壁外の巨人だ。
憲兵団は巨人と違って私を捕って食べたりはしない。
生きて戻れたら考えよう。
『外でも、死ぬなよ。』
外の世界に行くのはまだ慣れない。
…いつか、怖くないと思えるときが来るのだろうか。