△ ナカロマ 68
「…何してる」
気難しそうなリヴァイの雰囲気。
だけど、書類で顔を隠す私を見てふっと少し頬を緩めた。
「それで隠してるつもりか?」
一気に柔らかくなる、彼の表情。
…私のこと、本当に馬鹿な小さい子だと思って接してるんじゃないだろうか。
「あっ…」
「顔色は大分マシになったな」
呆気なく書類を手から取られて顔を覗き込まれ、その書類の中身をパラパラと捲りながらその眉間にしわが寄っていくのを見ていた。
あ、これって、怒る雰囲気…?
「…被害報告を見てたのか。
お前以外にも初めて外に行った奴らが大勢死んだようだな」
そう言った彼の言葉こそ少し厳しいものだったけど、
表情は決して彼らを責めているわけではなかった。
出来ることなら一人でも多く新兵を助けてあげたかったんだろう。
私を、助けてくれたように…。
開いていた箱に私から取った報告書の類を戻し入れていたリヴァイに声を掛ける。
「リヴァイ…」
箱にしっかりと蓋をしてから、彼は私と向き合った。
「今日も、だけど…。
どうして私がいる場所が分かったの?」
ずっと気になってた。
今日のことはまだ、なんとなく分かる。
病室に行けば私はここに向かったと聞くことが出来る。
もし行く場所を聞かなかったとしても、私の行動は簡単に読むことが出来ると思った。
体調が戻って壁外調査の詳細を知りたいと思うのは普通だろう。
私の性格を知るリヴァイなら、尚更すぐ資料室に向かうなんてこと分かる気がした。
でも。
でも、この前の壁外の時は違う。
私はエルヴィンにも調査に参加することは伝えていないし、本当に出発直前での変更だったのだ。
最悪、私がいないことに気が付くまでに結構な時間がかかるだろうと思っていた。
どうして?
「…どうやって見つけてくれたの?」
私が真っ直ぐ見つめると、リヴァイは腕を組んでから本棚の枠に軽く背中を預けた。
言葉を選ぶように少し間を置いてから口を開く。
「…前も言っただろうが、お前は隙だらけだと。
お前が考えてることくらい大体分かる」
…うう、隙だらけなのは否めない。
やっぱり今日の場合は簡単に居場所がバレたみたいだけど…。
その答えは、この前迎えに来てくれた理由にならないよ。
いつもならこうしてはぐらかすリヴァイに折れてあげるけど。
リヴァイが変わったみたいに私も変われるんだって、分かって。
「……じゃあなんで…」
そろそろ、ちゃんとした理由を知りたいよ。
「なんで、助けてくれたの?」
さっき読んだ報告書にしっかりと明記されていた。
壁外調査後、一度全班は壁に到着している。
そこからリヴァイ班を含めた精鋭の班がもう一度荷馬車を伴って壁を出発していた。
分かってる。
私の為だけにそんな立て続けに二度目の出発をするわけなんてないって、ちゃんと分かってる。
荷馬車で何か大きな器具を運んでいたみたいだし、きっとそれが本来の目的だったんだろう。
リヴァイ達には果たすべき役割があったのは誰の目にも明らかだ。
だけどそんな彼が、全体から一人離れてあんな巨大樹の森に来る理由がどうしても分からない。