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 ナカロマ 56

とくとくと、リヴァイの心臓の音が聞こえて目を閉じた。

頭はまだ鈍く重いけど体中をしめつける痛みは大分引いている。

左足…、と考えてから、はっとして体を起こすとまた肩を強く抑えられた。



「…っ!」



身体も、押さえつけられた肩も痛んで思わず眉根を歪める。


「急に動くな、足に障る」


そう言われてリヴァイの目線を辿るとブーツを脱がされた足に添え木と布が巻かれ、その上から冷たい布が掛けられているのが目に入った。

大分痛みがなくなっていたのはこのおかげのようだ。


「痛い思いをしたくないなら動くなよ」


全てにおいて見透かすリヴァイに今度はわたしも静かに頷いて、さっきまでのように彼に体を預けるしかなかった。

小さく降る雨音だけが辺りを包んでまた意識がぼんやりとしてきたとき
彼の手がわたしの髪でさらりと遊びお互いの少しの動きも感じられるくらい触れ合う体に彼の声が響いた。


「…俺に、なにか言う事はないのか」


もう一度見下ろしてきた瞳に少し睨まれた。

…怒ってる…。


少し掠れた声。

大好きな、低い声。


…言いたいこと?

そんなのたくさんありすぎて…。


困惑している私の表情を見て全く面白くなさそうに彼は続けた。



「勝手に外に出たな。
俺にも…エルヴィンにも黙って。」



あ。

そういえば。
どうしよう。

もう怒ってくれることもないと思ってたから言い訳なんて考えてない…。




「言おうと…思ってたんだけど…」




苦し紛れに言葉を選ぶけど。


「お前…俺が来なかったらどうなってたと思ってる」


怪我をして、死にかけて。

そう言われるとどんな言葉も浮かばなかった。


リヴァイがいなかったら、いまごろ…
本当に死んでいたかもしれない。

彼の言っている意味が痛い程分かって、自分の未熟さと無力さに目を伏せる。


「ごめん、なさい…」


ぽたりと木々の間から零れた雫が丁度私の頬に落ちた。
それをリヴァイがすぐに指で拭う。


「あまり…心配させるな」


ため息交じりにそう呟いたリヴァイの声は呆れたようなものだった。

少し反論しようと伏せた睫毛を上げると、少し困ったような、でも柔らかく私を見つめる瞳と目が合って思わず口を噤んだ。

…私を見つけてくれた時もこんな顔してた。

こんな風に心配させたかったわけじゃない。


リヴァイの私に対する感情が私のものとは違っても。

…それこそ家族愛に近いものだったとしても。

彼が私を大切に思ってくれていることには変わりないのかも知れない。

傷つけたくないって、一番幸せになってほしいって思ってるのに。


そんなわたしが迷惑ばっかり掛けていたらだめなのに…。






「……ごめんなさい…」



  


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