短編集 | ナノ


俺の特権

※同級生・他学部
※【そばにいるよ】と同設定
※常闇視点




ヒーロー科は他学科と違い、1時限多く設定されている。
そのためどうしても名との下校タイミングはズレが生じる。
故にいつも図書室で待ち合わせ、揃って下校していた。

ある日、ふと思い出したように名が呟いた。
「職場体験も終わったけど、踏陰くん、中間テストの勉強してる?」と。

脳を鈍器で殴打されたような衝撃が俺を襲う。
正直に告白すると、完全に失念していたのだ。


「…その感じだと完全に忘れてた?まぁ、まだ入学してたった2ヶ月くらいだし、そんなに範囲も広くないと思うけど…。
 普段からコツコツやっておかないと期末が地獄になるんじゃないかなぁ?」

まったくもって彼女の言うとおりだ。耳が痛い。


「そこで提案なんだけど。放課後、1時間くらい一緒に勉強してから帰らない?」

「俺にとってはありがたい提案だが、名は大丈夫か?帰るのが遅くなるが…」

「わたしは大丈夫〜。ほぼ一人暮らしみたいなものだし。
 それに踏陰くんもいてくれるもの。何も怖くないよ?」

「…違いない」

「じゃあ決まりー!明日からはじめようねぇ」


ニコニコと弾んだ声で名は言う。
そんなに居残り勉強が楽しみか、と尋ねると。踏陰くんと長く一緒に居られるから楽しみなんだよ、とあっけらかんと答えた。


「そうだと思った」

「じゃあ意地悪なこと聞かないでよー、踏陰くんのイケズ!」


そんな軽口を叩きながら、駅方面へと足を運んだ。



+++   +++   +++


翌日。
6時間の授業を終えた俺は真っ直ぐに図書館を目指した。
いつも名が座っている一番奥、窓際の席。一番静かで、邪魔にならない程度の日光が気持ちいいらしい。


「……」


いつもなら参考書なり学問書片手に時間を潰しているのだが、今日は違った。
一見、分厚い問題集の難問と格闘しているように見えるが、規則正しく上下する肩とまったく動く気配のない利き手から直ぐにわかった。

…居眠りか、と。

1日授業があったのは俺だけじゃない。勿論彼女も同じなのだから、それは構わない。
俺の前ではいつもにこやかにしているが、名も疲れているのだろう。

そんなこと考えつつ、起こさないよう慎重に隣の椅子を引き腰掛ける。

ちらりと右側へ視線をやると、艶々とした髪が太陽光に照らされ、まるで光る絹糸のよう。


手を伸ばし、起こしてしまわないようにそっと髪をひと房持ち上げる。
ゆっくり離すとサラサラと流れていく。

その動作を何度か繰り返していると、流石に違和感を覚えたのか、名の瞳が開かれる。

「…ん、あれ、ふみかげ…くん…?」

「ああ。―・・おはよう、名」

「んん?おはよ……わたし、…?」

まだ寝ぼけ眼な名は目をこすりながら自分の置かれた状況を理解しようとする。
うたた寝をしていたようだぞ、と教えてやると徐々に飲み込めてきたのか一気に顔を真っ赤にし両手で覆い始めた。

「ッ!やだ!…寝顔…見たの?」

「勿論」

「嘘ぉ……も、恥ずかしいよ……」

「何を言う」


ひと房、名の髪を手に取り、耳にかける。
うたた寝とはいえ、寝顔を見られたことがかなり恥ずかしかったのか。顔は勿論耳まで赤い。

耳元へ口を寄せ、彼女にしか聞こえない声で言葉を紡ぐ。




「可愛かったぞ」





「―?!」



一拍遅れて言葉の意味を理解した名はより一層顔を赤くし、酸欠の金魚のように口をパクパクし始める。


…こんなことを言うつもりはなかったのだが…。
普段お前の言動に揺さぶられているのだから、たまには俺からでも構わないだろう。


羞恥心と嬉しさが入り混じった名を、俺は心の底から愛おしく思った。




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甘い話を考えていると、このキャラは本当にこんなことをいうのだろうかという疑問にぶち当たります。
あまりにも乖離しすぎたことは言わせないように気は付けていますが、それでも不十分でしたら申し訳ないです。

好きな人の寝顔を見つめているのって幸せな気持ちになるのでいいと思います。

2017.04.30


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