13
私はもともと、証券会社勤務の会社員だった。
ある日同僚に誘われてはじめた株式投資。
この時に、思っていた以上の利益を上げてしまったことがそもそもの始まりだったのかもしれない。
勿論、失敗をすることもあったがその上で都度冷静に分析を繰り返し、損失を少なく比較的安定して金を稼ぐことができた。
そんな生活を続けていた私は、会社を退職し投資家の道一本で生活することを決めた。
これだけ稼げたのだから、もう普通の会社員なんてやっていられない。それだけだった。
退職してしばらくしたある日、何気なく利用したタクシーの運転手・九条と出会った。
他愛ない世間話…ヒーローと警察の連携がもっとうまくならないか、という愚痴だとか。
個性が発現して結構経つが、外で自由に使えないのは不便だ、とか。
そんなことを話し合っていると、九条の娘が珍しい個性を持っていると聞かされた。
珍しい、とは具体的にどういうことなのかと尋ねるとどうやら治癒にまつわるものらしい。
この時私はピンときた。
治癒の個性はこの時も非常に希少なもので、引く手あまたな状態である。
うまく活用できれば、金の生る木に化けると。
それからの行動は早かった。
九条と名刺の交換を依頼し、彼を専属の運転手として迎え入れ。時間をかけて信頼関係を築いた。
彼の家族とも親交を深め、いわゆる家族ぐるみの付き合いを繰り返した。
と、いっても私は独身貴族を貫いていたのでこの言葉が適切かどうかは置いておく。
九条一家からの信頼が最高に高まった時、事故が起こった。
非常に不幸な”事故”だった。
九条夫婦の乗る車に”偶然”別の車が衝突してしまい、夫婦の車は大破。
乗車していた二人は即死。帰らぬ人となってしまった。
その後、秘書の働きで九条の娘を引き取ることがマイナスになるように彼の親族を煽り、私が娘を引き取ってもおかしくないようにした。
親戚には見捨てられ、頼れず。突然両親をなくした幼い少女の唯一無二の拠り所という立場を手に入れたのだ。
こうなってからは簡単だ。
娘…名の持つ治癒の個性は本当に、多くの金を生み続けてくれた…。
敵や裏稼業の連中はおおっぴらに病院治療を受けることができない。
闇医者にかかるしか道がないのだが、そもそも人数があまり多くはない。
だがそんな問題も、名の個性にかかればどうってことはなかった。
ゆっくり。ゆっくりと時間をかけて彼女を外界から遮断し、籠の中へ閉じ込めることに成功した。
この先も名は歌い続ける。この私が繁栄するために。ずっと。
だがしかし、その扉を無理矢理こじ開けて名を外の世界へ連れ出されてしまった。
1ヶ月も時間がかかったがなんとか連れもどすことができたのに、今度は契約していた敵のカスだ。
ああ……
私の、いや。俺の大切な小鳥。
俺に富をもたらしてくれるかわいいかわいい鳥。どこへ行ってしまったんだ?
「――イ オイ!!」
不意に、乱暴な声で現実に引き戻される。
緩慢なう動きで頭を上げると、そこにいたのは漆黒ヒーロー。
ああそうだ…お前さえ。
お前さえ現れなければ……
俺の小鳥は、ずっとずっとトリカゴの中で囀っていたというのに。
------------------
2017.07.11