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我思う、故に我あり。など。

布団の中で考えることってどうでもいいことばっかりだ。
冬の朝は何時に起きても何時間寝てもいつだって眠い。
目が覚めてからもしばらくぼーっとして天井の木目を眺めながら、どうでもいいことにばかり考えを巡らす。
たったそれだけで1時間くらい経過していたりすることもあるから驚きだ。
1日の予定を立てるのなんて起きて朝食を食べながらでもいいというのに、どうしても布団から抜け出せずにいつまでもぬくぬくしてしまう。
人間はきっと暖かさの魔力から抜け出すことができないのだろう。
布団は何重にもかさねて若干重たいくらいの方が好きだ。
秋用の薄い布団は片付けるのが面倒で、冬になっても冬用の厚い布団と重ねて使っている。
その上にまた毛布をかけて、熱を逃がさないようにしたら完成だ。
もうここから抜け出せない。
うちにはコタツがないから、布団から抜け出したらあとはもう家の中にいくつか置いてあるストーブをセーブポイントのように転々とするしかない。

頭の中でU2の「with or without you」が流れている。それを聴きながらまたどうでもいいことを考え始めた。

最近働いているレンタルビデオショップでのアルバイトは、当然アダルトDVDも取り扱っている。
自分から積極的には行かないが、返却されたアダルトDVDを元の場所に戻すこともあれば、古くなったものを中古販売用に加工することもある。
18禁のコーナーへ足を踏み入れると、パッケージに写る女の子たちがみんなこぞって「私を見て」とでも言うように男の人の好きそうな髪型や、メイクや、表情やポーズでこちらを見つめてくる。
中にはただ局部がドアップで前面にプリントされているパッケージもある。
なにが楽しくて同性の局部など見なくてはならないのか。
最初こそ気恥ずかしくて行きづらかったアダルトコーナーだったが、今ではなんの感慨もなく無心で、なんなら考え事でもしながら黙々と返却作業を行っている。
しかしあまりに見慣れすぎて考えもしなかったが、改めて見てみるとアダルトDVDのタイトルは無駄に長く、実に下品で卑猥な言葉が羅列していると思う。
レイプモノだの不倫モノだの、常識的には犯罪行為であるこれらは、本数が多くおそらく人気のカテゴリーであることが伺える。
日常的に、社会的に規制されていることを易々と侵してことを致すというスリルや背徳感が、男性を興奮させるのだろうか。
みんながみんなそこに性的興奮を覚えるわけではないだろうけど、一部の人間はきっとそうなのだろうな。
そう考えるとタイトルへの疑問も納得がいく。
普通なら鬱陶しがられる長ったらしい題には非日常さを、自然と自制している下品な言葉遣いは背徳感をもたらすのだろう。
つまり極論ではあるが犯罪行為を切り取った映像を売れば一定の需要はあるわけか。
人を殺しまくる映像を販売したらどうなるのだろう。
ただのアクション映画のようにかっこいい主人公がヒロインを救うために銃をぶっ放すのではない。
ただただ人が人を殺すだけの映像だ。
ストーリーなど関係ない。
友だちにふざけてAVを見せられたことならあるが、自分から手にとって見たことはない。だからアダルトビデオの内容にもしかしたら感動要素が含まれているものもあるかもしれないが、少なくともレイプモノのAVに嫌がる女の子の涙以外流れる雫はないだろう。
つまり一般的な映画のようにストーリーを重視などしなくても人を殺しまくりさえすれば売れる可能性があるのでは?
途端に私の頭の中には、18禁コーナーの暖簾をくぐると実に暴力的でグロテスクなパッケージの並ぶ終末期のようなレンタルビデオショップの有様が浮かんだ。
主力はやはり血がたくさん出るやつだが、軽めのものは絞殺や撲殺程度だ。
ちゃんと動機のある計画型殺人モノや、無差別殺人モノがある。
コーナーの装飾は釘バットを模したレプリカを置こうか。

ここまで考えて、ようやく私はいったい何を馬鹿なことを想像しているのだろうと我に返った。

大学が春休みに入ってから、9時に目覚ましをセットしてもこういうわけから結局10時半頃にのそのそと起き出すことが多くなった。
両親や兄弟はとっくに仕事に出かけていて、リビングに降りてもいるのは犬だけ。
はやくストーブをつけろと催促してくる犬に、私も同じ気持ちさとスイッチを入れた。

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