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森の中から爆発音が鳴り出したのは
巨人接近の知らせを聞いてから
数分後のことだった。

要は森の中に巨人を入れなければいいんだ、と
2人は無駄な戦闘をすることを避け、
巨木を登ろうとする巨人を傍観している。
巨人と言えど、
この高さまで登るのは至難の業だろう。
しかし厄介なことに無知性巨人にも
学習能力が備わっているらしく、
木登りが段々上達しているのが気がかりだ。




「…もう少し近付いてきたら移動するぞ」




「う、うん…!」




「それで?」




「え?」




ごくりと唾を飲み込みながら
アルミンがジャンを見上げると、
彼も緊張の面持ちで此方を見下ろしている。
巨人を前にして冷静を保てる程、
2人はまだ経験を積んでいない。




「さっき何か言いかけたろ」




「…あ!…うん、その話なんだけど」




余程言い辛いことらしく、
アルミンは目を泳がせ、唇を噛む。
ジャンは彼女を追及することはせず、
話す勇気が出るまで待ってくれるようだ。
視線をアルミンから逸らし、
じりじりと近付いてくる巨人へと向けた。




「…今、森の奥で…何かやってるでしょ?」




繰り返し鳴り響く大砲の音。
今もなお、それは微かに聞こえてくる。




「たぶん、エルヴィン団長は…
あの女型の巨人を捕獲するために
ここまで誘い込んだんだと推測される」




ぽつりぽつりと語り出したアルミンに
視線を向けることなく、
ジャンは無言のまま耳を傾けている。




「そんな大掛かりな作戦を、
一部の兵にしか教えなかった理由も、
これしか考えられない」





ーーー人為的に、
壁を壊そうとする奴等が兵団の中にいる。





静かに、しかしはっきりと言い放った
アルミンの声を聞き、ジャンは舌打ちをする。
こう見えて現状を認識する能力に長けている
ジャンも、本当の目的に薄々勘づいていた。
しかし、どこかでそれを否定する
自分が存在していた。
誰だって、共に心臓を捧げた仲間の誰かが
壁を壊した巨人だなんて疑いたくはない。
アルミンだってそうだ。
そんなわけない、と何度も掻き消そうとしたが、
疑惑の念は膨らむばかりで、
ついにこうして打ち明けてしまった。


最悪な展開だと溜め息を吐き、
なおも語り続けるアルミンの声に耳を貸す。





「エレンの存在は巨人が人為的に操作されている
可能性を示唆するものだから、
壁を壊そうとした巨人は人間であり…
彼らは壁の内側にいると想定される…ならば
真っ先に今やるべきことは、その人間を特定して
これ以上壁が壊されるのを防ぐことだ」




「…あの音は、そいつが罠にかかった音で…
エレンはその餌か…」




自身の推論を否定することなく受け止めてくれた
ジャンの横顔を見て、アルミンは少し安堵する。




「しかし…どうして団長はエレンが壁を出たら
巨人が追ってくると確信できた?」




話を理解し的確な質問を投げ掛けてくれる彼と
アルミンは目を合わせる。
兵舎の食堂でも、アルミンの難しい話に
根気強くついてきてくれたのは彼だけだ。




「それは…今回の襲撃で
彼らが壁を完全に壊さなかったからだと思う」




「…は?」




「彼らはなぜだか
攻撃を途中でやめてしまったんだ。
ウォール・ローゼを塞ぐ内扉まで破壊しなければ
彼らの目的は達成できないはずなのに…」




5年振りに現れた超大型巨人。
多くの同期が犠牲になったトロスト区での攻防を
思い出すのは辛く、2人の表情に影が落ちる。
ジャンは親友のマルコを亡くし、
アルミンは同じ班の友人達が
目の前で巨人に食われていく様を目撃している。




「…中止する理由があったんだ。
せっかく壊した扉が
塞がれてしまう時もほっといた。
恐らくそれどころじゃなくなったってことじゃ
ないだろうか…」




もし彼らが、壁の破壊よりも重視する何かが
あの時に起こったのだとしたら、
それはエレンの巨人化以外には考えにくい。




そこまで聞いて、ジャンの表情は変わる。
目を見開き、アルミンを見下ろして口を開けた。
彼女は無言で俯いている。
ジャンは彼女のその態度を見て確信した。
アルミンが言いたいことは。





「…つまり…エレンの巨人化を
あの時知った奴の中に、
諜報員のようなのがいるってことか?」





ーーー…あの時、あの場所で、
見てた奴らの誰かが…。


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