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死んだ甲斐があった、と誰かが言った。
今日、人類が初めて巨人に勝った。
岩で塞がれた扉を見て、リコは
黄色い煙弾を放つ。
それは作戦成功の合図。

しかし、歓喜の声を上げるのにはまだ早い。
壁の中に巨人はまだ
うようよと蔓延っているのだから。

扉を塞いだ直後、役目を終えたとばかりに
エレンはその場に倒れ込んだ。
それを見たアルミンとミカサの2人は、
早く壁を登れという上官の指示を無視し、
エレンに駆け寄っていく。



「エレンを回収した後離脱します!」



アルミンは早口でそう告げ、
一足先にエレンのうなじにたどり着いた
ミカサを見上げ、問い掛ける。



「ミカサ!エレンは…!?」



…おかしい。
声は掠れるし動悸がひどい。




「体の一部が一体化しかけてる!
引っ張ってもとれない!」




焼けつくような高温に堪えながら、
懸命にエレンを引き剥がそうとするミカサを
すぐにでも助けたいのに、
アルミンの身体は怠さを訴えてきて
思うように動けない。
恐らく、体力の限界だ。
元より、常人より脆く出来ているこの身体が
今立っていられることの方が驚きだ。



…眩暈がする。




ふらつくアルミンに気付いたのか、
ミカサは立ち上がり此方に視線を送る。
同時に目を見開いた。




「アルミン!逃げて!!」




ミカサの悲鳴のような声がこだます。
今まさに、アルミンを補食しようと
一体の巨人が彼女に手を伸ばしたからだ。

駄目だ、今から飛んでも間に合わない。

それでも、
逃げてと叫ばずにはいられなかった。

アルミンは意識朦朧としているのか、
迫り来る巨人に恐怖を感じることなく、
ゆっくりと瞼を閉じようとした。





ーーーその時、突如として旋風が巻き起こり、
アルミンの金色の髪を揺らした。




(…あれ…?)




巨人に食われた筈なのに血が出ない。
痛みもない。
その代わり、自分のものではない
体温を感じた。
誰かの腕に抱かれている、と頭で理解した時
目に入ったのは深緑色のマント。
耳に入ったのは不機嫌を露にした舌打ち。




「おい…ガキ共…」




人を殺せそうな鋭い眼差しに
貫かれたミカサは、無意識に背筋を伸ばす。
自由の翼を背負った人相の悪い男は、
片腕にアルミンを抱いている。
彼女を抱え、一瞬のうちに巨人を討伐した。
勿論、無傷で。
信じられない。
こんなことが出来る人間がいるのか?


いや、人類最強と謳われる男…
リヴァイ兵士長だからこそ、
それは可能なのだ。


驚愕するミカサに詰め寄るように、
リヴァイはアルミンを抱えたまま
此方に向かってくる。




「これはどういう状況だ?」



「………、」




ちらりと見下ろせば、蒸発を始めた
巨人の骸のうなじ部分から
少年の上体が顔を出している。
それを見て眉を寄せるリヴァイに、
弱々しくも声を上げたのはアルミンだった。




「切って、ください……」



「あ?」



「っ、エレンの身体…!
引っ張ってもとれないなら、切るしか…」




込み上げてくる吐き気を堪えながら、
アルミンが必死にそう伝えると、
意外にもリヴァイは大人しくそれに従った。
剣の切っ先をエレンを縛り付けている
筋繊維に当て、ぶちぶちとそれを切っていく。
隣に居るミカサが悲鳴を上げたが、
全く気にする様子はない。

解放されたエレンは高熱で、
此方が声をかけても反応を見せない。
慌てたミカサはすぐに医療班へ運ぼうとする。



「……おい、待て。
そのガキは一旦エルヴィンに引き渡す。
お前はこのガキの方を連れてけ」




そう言ってリヴァイは
アルミンの体をミカサに向けて放り投げる。
慌ててそれを受け止めた後、
非難の目をリヴァイに向けるが、
彼は相変わらずの無表情で
乱暴にエレンの首根っこを掴む。
巨人のうなじから出てきたこの少年が
事態の鍵を握る人物だと判断したのだろう。




「待ってください…リヴァイ兵長…」




すぐにでも飛ぼうと思ったが、
弱々しい声で制され、リヴァイの動きは止まる。
ミカサに凭れたまま、空よりも青い瞳が
リヴァイを捉えていた。




「エレンはすぐにでも休ませるべきです。
ここで、何があったかは僕が説明します…
エルヴィン団長の所へ案内してください」




震える足で立ち上がり、
それでも真っ直ぐ此方を見据える
少女の姿をまじまじと見て、
リヴァイは衝撃を受けたように目を見開く。

先程、偶然助けた訓練兵は、
壁外調査に出発した今朝、
街道でエルヴィンに熱視線を送っていた
あの少女だと、
ここで漸く気付いたのだ。


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