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この日調査兵団が壁外調査を
早々に切り上げたのは
巨人が街を目指し一斉に北上を始めたことに
エルヴィンが勘づいたからだ。

5年前と同じだ。
街に何かが起きてる。

壁が破壊されたかも知れないという
悪い予感は残念なことに当たってしまった。




「超大型巨人が外門を壊し、姿を消した…」



「そうじゃ。5年前のシガンシナ陥落の日と
状況は似ておる。
鎧の巨人が出現しなかったのが
不幸中の幸いといったところか」




現在、調査兵団の兵士を中心に
掃討戦が行われている。
壁上固定砲は絶えず火を吹き続け、
辺りには血と火薬の匂いが充満している。
その光景を眼下に眺めながら、
調査兵団団長のエルヴィンは
ウォール・ローゼ壁上で
ピクシスに事の顛末を聞いている。

超大型巨人の出現により穴を開けられたこと。
巨人化能力を持つ訓練兵のこと。
彼の力を利用し穴を塞いだこと。

俄には信じがたい話だが、
実際に扉に嵌められた大岩を見てしまえば
それは事実だと認めざるを得ない。



じっと外門を見つめているエルヴィンは
長考に入ったのだろう、
片手で口許をおさえて黙り込んでしまった。
それを見てピクシスは壁上に胡座をかいた。
物事の二手も三手も先を見る男。
今はピクシスが何を言っても
空返事しか返ってこないだろう。

暫しの沈黙の後、不意に背後から風が吹き、
ピクシスが視線を其方に向けると
相変わらずの仏頂面で、
リヴァイがそこに立っていた。




「おお、リヴァイか。街の様子はどうじゃ?」




問いながら、その腕に抱えられている
金髪の少女が目に入る。
目は虚ろで、随分と顔色が悪い。
それが奪還作戦前、
見事な敬礼を見せてくれたアルミンだと
気付くのに数秒を要した。




「どこもかしこも最悪だな。臭ぇし汚ぇ…」




「まぁ、お主が居れば壁内の巨人共も
じきに片付くじゃろう」




「相変わらず人使いが荒いな、じいさん。
おい、エルヴィン」




軽口を適当に受け流し、リヴァイは
難しい顔をしているエルヴィンに歩み寄り、
その腕に抱き抱えた少女を見せる。




「り…リヴァイ兵長、もう、大丈夫です!
降ろしてください…」




「あ?死体みてぇな顔のやつが何言ってやがる…
おいエルヴィン、
こいつが詳しい話を知ってるらしい。
お前に直接話をしてぇと」




粗野で粗暴な言動、態度とは裏腹に
自分を抱くリヴァイの腕は優しかった。
まるで壊れ物のように扱われるので、
アルミンは戸惑い、
余計に動悸が激しくなっている。
リヴァイはそれに気付いていないようで、
腕の中にアルミンを収めたまま、
エルヴィンを見上げて話を続ける。




「じいさんに巨人化出来るガキの話は聞いたか?」



「…ああ」




「そのガキは随分と具合が悪そうでなぁ…
一旦ハンジに引き渡した」




医療班へ連れていけば
現場が混乱すると判断したリヴァイは、
医療の知識もある分隊長ハンジ・ゾエに
エレンを預けていた。
ミカサもついているだろう。
巨人化能力を持つ少年を見て、
ハンジの探究心に火が付くことは
目に見えて解るが、
彼女がエルヴィンの了承もなく
勝手な真似をするとは思えないので、
そこは安心できる。




「とりあえず今はこいつの話を聞いてやれ。
…ほら、アルミン。愛しのエルヴィン団長様だぞ」




「…っ!!」




逞しい腕に背を支えられたまま、
アルミンは青い目を見開いた。
目の前には、此方を見下ろすエルヴィンの姿。
さりげなくリヴァイに茶化されたことを
気にしている場合ではなかった。


憧れの人物が今、自分だけを見下ろしている。




「君は?」




短くそう問われ、アルミンはハッとして
すぐに敬礼をする。




「104期訓練兵、アルミン・アルレルトです!
トロスト区奪還作戦の全容を
エルヴィン団長に報告すべく参りました!」




「そう固くならなくていい。君の話を聞こう。
出来れば要点だけを纏めて簡潔に」




「は、はい!」





途端背筋をピンと伸ばし、
超大型巨人の出現から
自分を庇ったエレンが巨人に食べられたこと
その後巨人を殺す巨人が突如現れ、
その正体が死んだはずのエレンだったこと、
トロスト区奪還作戦の立案、
そして大岩で穴を塞ぐまでの状況を説明した。


しっかりとした口調で説明するアルミンを
エルヴィンは終始無言で真っ直ぐに見つめていた。




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