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皆を先導し一人前を行くミカサは、
新兵とは思えない動きで
巨人を斬りつけながら道を切り開いていく。
その背を追う兵士達は、
頼りになる後ろ姿を見て
感嘆の声を上げていたが、
幼少の頃から共に過ごしているアルミンだけが
彼女の様子がおかしいことに気付いていた。




(ガスを蒸かしすぎだ…!
あれじゃすぐになくなる…)



いくら腕があったとしても、人間が
機動力なしに巨人と対峙することなど不可能。
巨人の脅威に対して、
人類はどこまでも無力なのだから。

エレンが死んだと聞かされて、ミカサは
やはりいつものような冷静さを失っていた。
動揺を行動で消そうとしている。
彼女の背中から昏く深い悲しみが伝わってきて、
アルミンの視界が歪んだ。

エレンに恋するミカサを、
誰よりも近くで見守っていたのに。

不器用なミカサが、エレンに上手く
好意を伝えるのにはどうすればよいか、
顔を真っ赤にしながら
尋ねてくれたこともあったのに。


彼女が自分の命よりも大切にしていた
エレンを死なせたのは
他でもない自分だ。




「………ミカサ……!?」




それまで凄いスピードで跳び回っていたミカサが
空中でバランスを崩したかと思うと
重力に抗うことなく
真っ逆さまに落下していくのを
アルミンは見ていた。

落ち葉のようにハラハラと落ちていくミカサは
途中で建物の屋根にぶつかり、鈍い音を立てる。




「ミカサ!!」




怪我を負ったであろう彼女を追いかけて、
アルミンは立体機動を駆使し
地面へと着地する。
巨人が這い寄る中、地上に降り立つなど
自殺行為に等しいが、
そんなことを言っている場合ではない。

すぐそこで一人、ミカサが地面に蹲っている。
そして微塵も起き上がる素振りを見せない。
このまま、ここで死ぬつもりなのか。




(……っ、ごめん…!ごめんミカサ……!!)




もう死んでもいいと、
生きることを諦めてしまう程の絶望を
味わせてしまって。



四肢を投げ出し、ごろんと倒れ込んでいるミカサに
アルミンは徒歩で駆け寄っていく。

その足音を聞き付けた巨人たちが、
くるりと方向転換し、
一斉に此方へ向かってくる。
宛ら、餌の匂いを嗅ぎ付けた獣のようだ。
しかし、アルミンは周囲の巨人に目をやるより、
今にも消えてしまいそうな程
小さく呼吸をしているミカサだけを見つめていた。



何よりもまずミカサの体温を確かめようと
手を伸ばしたアルミンを、
蔓延る捕食者の手から護ったのは


今まで見たこともないような
姿形をした巨人だった。



その黒髪の巨人は
ドオンという轟音と共に、
アルミンとミカサを補食しようと
手を伸ばしていた巨人を殴り飛ばした。





「………!!」





巨人が巨人を攻撃した…!?
見たことも聞いたこともない光景が
眼前に広がり、アルミンは息を呑む。
建物にぶつかり倒れ込む巨人を、
黒髪の巨人は追い掛けると、咆哮を上げながら
頭を踏みつける。何度も何度も。

巨人の息の根を止めるまで。




「………巨人が…巨人を殺してる……」




信じられない。
呆然と地面に膝をついているアルミンの傍で
むくりとミカサが上体を起こす。




「!ミカサ、無事か!?」




「…私は大丈夫…」




夜の闇のような彼女の瞳は
黒髪の巨人を真っ直ぐに捉えている。

巨人が巨人を殺すその異様な光景は
人類の怒りが体現されたように見えた。



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