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言葉をなく立ち尽くしている二人を
慌てて追ってきたのはコニーだ。




「おい!!とにかく移動だ!!」




その声にハッとして、アルミンは
ガス切れのミカサを抱えて
建物の上へと避難する。
身長差も体重差もかなりあるため
アルミンは少しよろけた。

そうしている間にも、あの黒髪の巨人は
襲い来る巨人たちを倒していく。
なんだアイツは、と驚いたコニーは
口をぽっかりと開けている。



「…僕達に無反応だ…とっくに襲ってきても
おかしくないのに…」



一息つきながら、取り合えず
声に出して状況を把握しようと試みる。




「とどめを刺したってことは…
弱点を理解して殺したのか…?」



その戦い方から、あれには
格闘術の概念があるようにも感じる。
無知性巨人達とは明らかに
瞳の輝きも違う。

顎に手を当て巨人同士の戦いを眺めている
アルミンを急かすように、コニーは声を張り上げる。




「奇行種って言うしかねぇだろ、
とにかく本部に急ぐぞ!
みんなが戦っている!」




補給部隊が籠城している本部に群がる
巨人を思い出し、アルミンはハッと我に返った。




「待ってくれ!
ミカサのガスが空っぽなんだ!」




「…!」




その一言に愕然とするコニーと
ばつが悪そうに俯くミカサ。
調査兵団が出払っている今、
ミカサ無しでは巨人に対抗出来ない。

エレンの訃報を聞いて冷静さを欠き、
皆の命を背負う覚悟もないまま
先導した自分の行動を、
今になってミカサは恥じた。

重苦しい沈黙の中、自分が今やるべきことが
何か解っているアルミンは、
自らの立体機動装置と
ミカサのものを交換する。
残っている刃も全部足した。




「…アルミン!?」




「こうする以外にない!
僕が持っていても意味がないんだ!」




でも今度は…大事に使ってくれよ。
みんなを助けるために。



目を合わせることなくそう呟いた
アルミンの手には
折れた小さな刃が一つだけ残っていた。

光を反射するその刃を見て、
ミカサの目の色が変わる。




「ただ、これだけはここに置いていってくれ…
やっぱり…生きたまま食われることだけは
避けたいんだ…」




巨人が大勢いるところを、人一人抱えて
飛び回るなんて不可能だ。

アルミンは一人、ここに残るつもりでいた。

弱い自分のせいで
もう友達を死なせたくないから。



しかし、ミカサはアルミンの申し出を
聞いてやるつもりはない。
片手で軽々とアルミンの持っている刃を奪うと、
それを建物の上から放り投げた。




「え!?」




怒りで僅かに震える手をおさえ、
ミカサは呆然としているアルミンに向き直る。

エレンと出会い、生活を共にするようになった
翌日に、彼女はミカサの前に現れた。
待ち合わせの場所は決まっていて、
先に着いていた彼女は
木の下に腰を下ろし本を読んでいた。
此方に気付くと彼女はエレンに笑顔を見せ、
初対面のミカサにもまた、
木漏れ日のような笑顔を見せた。



『初めまして!』



目を細めて笑うアルミンは
ミカサをいつも優しさで包み込み、
一番の味方で居てくれた。
直情的なエレンが過保護ともとれるミカサの声に
反発した時も、アルミンは間に入ってくれたし
エレンへの恋心を打ち明けると
快く背中を押してくれた。
此方が一方的に嫉妬心を抱いても
アルミンの方はいつも通りミカサに接してくれ、
それによって三人の関係が
ぎくしゃくすることはなかった。

ミカサにとってエレンは家族であり、
大切な存在だ。


そしてアルミンは、自分にとって唯一の親友だ。





「アルミン。ここに置いていったりはしない」





強い口調ではっきりとそう言い、
ミカサはアルミンの手を握る。




「そうだよ、お前をこんなところに
残していくわけねぇだろ!?行くぞ!!」




ぐずぐずしている暇はない、とコニーは
徐にアルミンを抱える。
小柄なコニーでも軽々と持ち上げられる程、
彼女は小さくて華奢だ。




「ちょ、ちょっと待って…!」




「俺がお前を抱える!ミカサが援護だ!!」




話を聞こうとしないですぐに飛び立とうとする
二人を、アルミンは眉を下げて交互に見つめる。

駄目だ、このままじゃまた友達を死なせてしまう。
いくらミカサが強くたって、
これから一人で何体の巨人を
相手にすることになるんだ。

コニーの腕の中で、アルミンは
二人を生かす方法を必死で考える。


この混乱の最中でも、彼女の頭は働いた。


少し離れたところで巨人が上げる狼煙を見て、
アルミンは目を瞬かせる。




(そうだ!あの巨人……!!)




「き…聞いてくれ!!提案があるんだ!!」




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