1


その事実を知らされた時、
コニーは言葉もなく立ち尽くした。
心から信頼できる仲間だと思っていた。
同期として共に笑い、互いに手を取り合い
辛いことを乗り越えて過ごしてきた日々を
虚構のものだとは思いたくない。
何より、ウトガルド城で
侵入してきた巨人に襲われそうになった自分を
身を呈して庇ってくれたライナーが
鎧の巨人の正体だったなんて
そんなこと、信じられるわけがない。

不安に揺れる瞳を隠すことないコニーと
トロスト区から駆け付けたジャン、
アルミン、ミカサ…そしてヒストリア。
104期の面々は皆、
互いの心の傷を共有するかのように
1ヶ所に固まって馬を走らせる。

兵を先導するエルヴィンの怒号が大気を震わせる。
壁外の世界は広くて怖い。
かつては内地であったウォール・マリアも、
今では恐怖を感じずにはいられない
巨人の蔓延る広大な草原だ。


まもなく巨大樹の森が見えてくるという所で、
向かう方角から閃光が走ったのを確認できた。




「光った…!?」




隣を走るミカサが訝しげに眉を顰めたのを見て
アルミンは手綱を握り締めながら言う。




「たぶん、巨人に変化した時の光だ…!
誰かが巨人化したんだ!」




馬蹄音に掻き消されないように声を張る。
力を込めすぎて白くなった手は冷たい。
頭上には信煙弾の煙、辺りには巨人の足音。
此処は壁外、自分達は今生死の境目に居る。
アルミンのすぐ後ろではヒストリアが
険しい表情で懸命に前を見据えている。
壁の秘密を知る人物である彼女には、
出来ることなら安全な場所で
待機して貰いたかったが
ヒストリアは頑なにそれを拒んだ。
親友であるユミルが連れ去られた今、
何もせずただ黙って待っていることなど
出来ないのだろう。





「総員散開!!エレンを見つけ出し奪還せよ!」





力強いエルヴィンのその一声で
兵士達は方々に散った。

巨大樹の森からは巨人の大群が押し寄せてくる。
身の毛もよだつその光景を前に、
実戦の経験が浅い憲兵達は竦み上がり
次々に巨人の餌と化していく。




(まさか、囮にするために連れてきたのか…!?)




その隙を見計らい、調査兵団や駐屯兵団の兵士達は
巨大樹の森の中へ入り込むことに成功する。
…流石はエルヴィン団長。
エレンを奪い去るという目的の為には
手段を選ばない。


森の中に入ってすぐ、兵士達は立体機動に移る。

ーー…エレンは何処だ?
この森の中に居るはず。


視界が悪い中必死で目を凝らしていると、
森の奥の方から巨人の咆哮が聞こえてきた。




「「!!」」




何度耳にしてもゾッとする叫び声に、
アルミンは近くを飛ぶジャンと目と目を合わせる。
壁外調査では叫び声の後、
巨人の群れが一斉に押し寄せてきたのだ。
あの悪夢のような光景が脳裏を過り、
アルミンはごくりと生唾を飲み込む。

しかし、今回の咆哮は
巨人を呼ぶためのものではなかった。


木々の間を俊敏に飛び回る黒い影を
いち早く発見したのはコニーで、
森の奥からやってきたそれに
彼は慌てて声を掛けたのだ。




「ユミル!!」




「…ユミル!?」




彼女の巨人化した姿を初めて見たジャンは
その異形の姿を見て絶句している。
他の巨人と比べたら小柄だが、
発達した手足と鋭い牙は紛う事なき巨人のそれで
ユミルの面影を全く残していない。
104期兵達は一度枝の上に立ち止まり、
巨大樹の幹にぶら下がっているユミルと
真正面から向き合う。




「巨人化してライナー達と戦ってたの!?」




「ライナー達から逃げてきたのか!?
奴はどこに行った!?」




「何か喋れよブス!急いでんだよ!!」




極限の状況で余裕がないのか、
動きを止めたユミルを相手に皆一斉に問い質す。
しかしユミルは聞いていないようで、
キョロキョロと忙しなく左右に首を動かしている。
その仕草を目にしアルミンは最初、
ライナー達を警戒しているのかと思ったが、
彼女が一人一人の顔に目を向けているのを見て
そうではないと気付く。



ーーーまるで、誰かを捜しているかのような。
そしてその誰かはすぐに予想がついた。





「ユミル!!」





その時、少し遅れて此処に辿り着いたヒストリアの
歓喜に満ちた声が耳に入り、
アルミンはハッとして目を見開く。





「よかった!!無事だったんだね!?」




「クリスタ!!こっちに来ちゃーー」




思わず偽名の方が口をついて出た時には
もう遅かった。
ユミルの捜し物はヒストリアだと
頭で解った時にはもう、ユミルは大きく口を開け
ヒストリア目掛けて跳んでいた。


ユミルは華奢なヒストリアの身体を
一口で呑みこみ、これで用は済んだとばかりに
瞬時に踵を返す。



鬱蒼と生い茂る木々の間を軽やかに跳び回り、
小さくなっていくユミルの背中を
言葉もなく見送ることしか出来ない程、
104期の面々にとって
"ユミルがクリスタを食べた"という光景は
衝撃的だった。



×

back
121/109


人気急上昇中のBL小説
BL小説 BLove
- ナノ -