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信じられない光景を目の当たりにし
愕然としていると、
アルミンのすぐ隣に立っているジャンが
深呼吸をした後に「追うぞ」と一言静かに告げる。
今何をすべきかを簡潔に
声に出してからの行動は迅速であった。
直後、ワイヤーの射出音。
聞き慣れたその音は、
此処に居る全員が兵士としての
自己を取り戻す引き金となり、皆一様に
ジャンの背を追って幹を蹴る。




「速ぇ!!もう姿が見えねぇぞ!?」




ユミルが去っていった方向を全速力で飛ぶが
彼女の姿を確認することができない。
それでも、4人が動きを止めることはない。




「ユミルが何で…!?」




「俺は別に…
あいつが味方だとは限らねぇと思ってたがな!」




「あぁ…明らかに敵対的だ!
ライナー達に協力する気なんだ!
僕らは誘き寄せられていた!」




風を切りながら会話を続ける4人は
彼方此方に視線を張り巡らせる。
木々の間に幻影を見た。
訓練兵団時代のユミルとクリスタの姿。
仲睦まじい様子で、並んで歩いている姿。
クリスタはいつも笑顔だが、
ユミルは目付きが鋭く常に不機嫌な様子だった。
息を吐くように悪口を言うし、
人を見下したような態度をとる。
アルミンもよく、弱っちいと馬鹿にされた。
けれど、そんなユミルがクリスタにだけは
心を開き、屈託のない笑みを見せるのだ。
お前は私が守ってみせると顔に書いてあるようで
その純粋な愛情を見ていると、アルミンは
何度ユミルからキツい言葉を浴びせられようとも
彼女のことを決して嫌いにはなれなかった。





「まずいな、そろそろ森の出口…」





以前壁外調査で訪れた巨大樹の森よりも
此処は小規模であり、
あっという間に視界が開ける。
辺りが段々明るくなっていくのを
不安げな眼差しで眺めていると
薄い雲を纏った夕暮れの空の下、雷鳴が轟いた。




「あ……!!」




「まずい……!!」





巨人化したのはライナーだったようだ。
開けた視界に映るのは、
地平線に向かって駆けていく鎧の巨人。
その肩に乗っているのは
ベルトルトとエレン。
エレンは意識がないのか、ベルトルトの背に括られ
だらりと四肢を投げ出している。




「エレンが連れて行かれる…!!」




「急げ!!馬を使って追うぞ!!」




自然と、考えるよりも先に身体が動いていた。
4人は素早い動作で馬に跨がり、
大分先を行く鎧の巨人を目指して駆け出す。
壁外が恐いとか巨人が恐いとか、
考えている暇すらなかった。

エレンは人類の希望であり、
決して失ってはいけない存在。
しかしそれ以前に、104期の4人にとっては
かけがえのない仲間であり、友達であり、家族だ。
だから護る。絶対に手離すものか。
最悪な裏切りの後だから解る。
背中を預け、肩を並べて戦うことが出来る人間の
大切さを。





「各班!!巨人を引き連れたままでいい!!
私に付いてこい!!」




無我夢中で進んでいたら、
4人はいつの間にか指揮をとるエルヴィンの
近くまでやって来ていた。
彼が言った通り、気付かない内に背後から
餌を求めて巨人共が追いかけて来る。
…後ろを振り向かない方がいい。
そう判断してアルミンは前だけを、
小さく映るエレンだけを見つめた。

追いつけない速度ではない。




「…鎧の巨人は、間接部分の硬質な皮膚を
剥がして走ればもっと速く走れる筈だ、
そうしないのは…
長い距離を走れないのかもしれない…けど、
このままじゃもし追い付いても止められない…!」




「いや…何か手はある。今度は…躊躇うことなく
奴らを必ず殺す!」




「…ミカサ…!!」




ライナーを睨み付けるミカサの目は
獰猛な獣のようで、その凄まじい殺気に当てられ
アルミンの背筋に冷たい汗が伝った。
そのまま真っ先に鎧の巨人へ向かっていくミカサを
慌てて追いかけようとすると、
意外な人物に待ったをかけられる。





「アルミン!」





久しぶりにその声に名を呼ばれ、
アルミンの思考回路は一時的に停止する。




「君は私の近くに居なさい」




「でっ…でもミカサが…ジャンとコニーも…!」




「君はこれから使う予定がある駒なんだ。
大事にとっておかないと」




ハッキリと断言されては、
言い返すことなど出来なくなる。
同期達が今大変な状況にあるんです、
なんて口を尖らせて反論したところで、
従えとピシャリと返されるに決まっている。


どんどん先を行くミカサ、ジャン、
コニーの背中が遠くなる。

少しだけ減速し、後衛の兵士達に指示を飛ばす
エルヴィンの横で、
アルミンは眼前に広がる地獄絵図のような光景に
ただただ言葉を失った。








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