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影が差した瞬間、咄嗟に馬を停止させ
方向を変えようとしたが間に合わず、
アルミンは馬ごと蹴り飛ばされる。



「くっ……!!」



身体中に痛みが走る。
地面に転げ落ちたアルミンは、
すぐに態勢を立て直そうとする。
その拍子にマントのフードが被さり、
視界を遮るので
アルミンはすぐにフードをとろうとした。

しかし、フードをとったのは
自分の手ではなかった。




「………っ、」




いつの間にか自分の傍らに膝をついていた
女型の巨人は、
ゆっくりとフードをつまみ
アルミンの顔を覗き込んだ。



あまりの恐怖でアルミンは声も上げれず、
呆然と女型の巨人の瞳を見つめる。
硝子のようなキラキラした瞳は
確かに美しかったが、
感情が読めない冷たい色をしていた。
こんな間近で巨人と目と目を合わせるなんて。
しかも、何故か女型は
此方に攻撃をしてこない。
じっと動かないままアルミンの姿を、
その硝子の中に映す。
転んだ拍子に擦りむいたのだろう、
硝子の中の自分は頬から血を流している。





数秒間見つめあった後、
女型の巨人はゆっくりと立ち上がり
アルミンに背を向け、また走り出した。
まるで人間のようなフォームで。






遠ざかっていく"彼女"の後ろ姿を見て
緊張の糸が切れたアルミンは
その場にぺたんとしゃがみこむ。
呼吸が荒い。息が苦しい。
こんなに空気を吸い込んでるのに何故か苦しくて、
アルミンの視界は生理的な涙で滲んだ。

鼓動は依然として落ち着かない。
生きている、と確認するように
バクバクと鳴った。




「殺さない…のか…?」




自分を殺さないとしたら、それは何故だ?
ネスとシスのことは、
まるで玩具のように扱ったのに。
ネス班長には待っている家族がいるのに、
何の躊躇いもなく殺したくせに。




「何だ今の…?フードをつまんで…。
顔……?顔を確認した……?」





此方を傷つけないように、
優しくフードをつまんだ"彼女"の指先。
覗き込んできた彼女は、僅かに微笑んでいた。

一連の流れを思い返すと、
アルミンの中にある疑惑が生まれる。




(もしかして…女型の巨人の正体は……


僕のことを知ってる……??)





自分の顔を見て、
敢えて殺さない選択をしたのだとしたら
女型の巨人の中身は恐らく
自分と親しい人間ではないか。


いや、そんな、まさか。
そんな筈はない。
人の命をゴミのように扱う人間なんて
僕の周りには存在しない。


考えを振り払うように首を左右に振ると、
背後から「アルミン!」と名前を呼ばれる。




「大丈夫か!?立てるか!?」




現れたのはジャンだった。
彼は立ち止まり、馬から飛び降りる。




「ジャン…」




「血が出てる…!!」




彼はマントの端で徐にアルミンの頬を拭う。
すぐに手当てをしないと
綺麗な顔に跡が残ってしまうかもしれない。
慌ててがさごそと懐を探るジャンの手を、
アルミンは手を重ねて止めた。




「いい、大丈夫。予備の馬を使ってもいい?」




「も…勿論だ!そうだな…
まずは馬を走らせねぇと!」




馬に乗らなければ壁外では生きていられない。
彼女の体をひょいっと抱え、馬に乗せてやってから
ジャンも鞍を跨いだ。
後ろから、信煙弾を撃ったライナーも駆け付ける。




「寄行種の煙弾を確認したが
あのいいケツしたヤツがそれか!?」




「寄行種じゃない!!」





まだ女型の巨人は、
肉眼で確認出来る範囲に居た。
全速力で駆ければ追い付ける。




「巨人の体を纏った人間だ!」




並走する2人にそう告げ、
アルミンは前を行く女型の巨人を凝視する。
彼女の言葉に反応を示したのは、
右側を走るライナーだった。



「…何だって!?」




怪訝な顔をして振り返るライナーに、
冷静さを取り戻したアルミンは
自身の推論を述べる。




「巨人は人を食うことしかしない。
その結果として死なせるのであって、
殺す行為自体は目的じゃない」




話している間も、右翼側から
緊急事態を知らせる煙弾が次々と上がる。
右翼索敵は壊滅状態にあると予測される。




「しかしアイツは、
先輩を引っ張り地面に叩き付けた。
食うためじゃなく殺すために殺したんだよ、
他の巨人とは本質が違う」




「………」




黙って話を聞いているライナーを見つめ、
アルミンはもう一度
女型の巨人との邂逅を思い返す。

先程の、フードをつまみ、顔を確認した行為。




「あとは…そうだな、
誰かを捜してるんじゃないかって気がする…」




口許に手を当ててそう呟くアルミンを
射るような眼差しでライナーは見つめていた。




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