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旧市街地を抜けたら、
援護班の支援はそこまでだ。
これより先は、巨大な陣形を組織して
巨人から身を守る。




「長距離索敵陣形!!展開!!」




号令と共に、兵士達は一斉に散る。




ネス班は次列四・伝達。右翼側だ。
予備の馬と並走しながら、
アルミンは前を行くネスの後ろを追う。



先程赤い煙弾を確認した。
赤は巨人の発見を意味する色。



アルミンが同じように赤の信煙弾を放ってから、
既に5分は経過している。





(さっきから変だ…)




おかしい、とアルミンは眉を顰める。


赤い煙弾が撃たれて暫く経つというのに
陣形が乱れている。
あの煙の下で、何かよくないことが起きている。
よくないこと、即ち、巨人との戦闘。
恐らく右翼側で、誰かが巨人と闘っている。
巨人との戦闘を避けるために考案された陣形だが、
行動が予想できない寄行種に対してのみ
戦闘は必要だ。
誰かが闘っているということは、
運悪く寄行種と遭遇してしまった可能性が高い。


アルミンの予想通り、
然程離れていない地点から黒い煙が上がる。




「寄行種だ…!」




「アルミン!煙弾を撃て!」




険しい表情のネスが此方を振り返り
指示を送ってくる。
すぐに信煙弾を放つと、
「お前は少し離れた所を走れ!」と
更なる指示を受ける。
この緊迫した状況下でアルミンは
班長の指示に従う他ない。

右翼側に目をやれば、
近くの人間を無視して中央に迫ってくる
巨人の姿が視界に入る。




「チクショー!!やるしかねぇか!シス!!」




ブレードを引き抜き、右翼側へ
進路を変えたネスは、副班長のシスを引き連れ
迫り来る巨人に向かっていく。
こんなだだっ広い平原で
巨人…それも寄行種と戦うなんて自殺行為だ。
危険です、と止めようとした声は
しかし音にならなかった。

平地では立体機動装置本来の性能を
発揮できるものではない。
成功率は極めて低い上に落馬する。
隊列から孤立する恐れもある。
…しかし、陣形を壊させる訳にはいかない。
捕捉次第積極的に仕留めよ。
他でもない、ネスに教えてもらったことだ。




「ネス班長…!!」




7m級の巨人に挑む2人の背中を
アルミンは眉を下げて眺め、
指示通り少し距離をとろうと方向転換する。

今、ネスが立体機動を駆使して近付き、
巨人の右足首を削いだ。
途端、ぐらつく巨体。
隙を見てシスが巨人の左肩にアンカーを刺し
飛びながら、うなじを狙う。

この調子なら討伐できそうだ、と
アルミンが安堵のため息と共に顔を上げた瞬間。




「………?」





視界に入った不穏な影に、眉をひそめる。
遠くから、なにかが此方に近付いてくる。
まだ黒い点のように見えるそれは
数秒も待たない間に巨人の姿を象る。




「…何だアレ…!」




あれも寄行種か?
14m級はありそうなその巨人は
今まで見たこともない姿形をしている。
肉眼で確認出来るほど、その巨人は
気付けばあっという間に距離を詰めていた。
慌てて黒の信煙弾を撃ち、
7m級の寄行種を討伐したばかりの
ネスとシスに注意を呼び掛ける。





「ネス班長!!シス副班長!!
もう一体来ます!!」





アルミンの叫び声に2人が振り向いた瞬間だった。



その"女型の巨人"は突然スピードを上げ、
地響きと共に2人に襲いかかる。
余りに速すぎて逃げる間もなく、
こうなったら戦うしかないと判断した2人は
すぐにワイヤーを射出させるが、
女型の巨人はそのワイヤーを引っ掴み、
2人を地面に叩き付けた。




「あ、」





ボスッ、とまるで玩具のように
地面に転げ回るネスとシスは
口から血を噴き出し、
身体のあらゆる所が変な方向に曲がっている。




(2人とも、死んだ…!?)




あまりにも呆気なく、
慕っていた2人が目の前で殺された。
この1ヶ月間指示を仰いできた2人の死を
すぐには受け止められず、アルミンは愕然とする。

誰かが息をしている気配を察したのか、
女型の巨人はゆらりと此方を振り向くと、
今度はアルミンを目標に定めた。


美しい顔をした巨人と目が合い、
アルミンはハッと我に返って馬を蹴る。




ーーーーー逃げろ。





心の中でそう叫び、震える手で手綱を握り締め
アルミンは一人で平原を駆ける。

風を切りながら、先程ネスとシスを殺した
女型の戦闘を必死で思い返す。
生と死の狭間をさまよっている瞬間にも
アルミンは考えることを放棄しない。

女型の巨人は立体機動装置のワイヤーを掴んで
2人を引っ張り、地面に叩き付けた。
普通の巨人はそんな戦い方をしない。





「…ネス班長教えてください…!
どうすればいいんですかヤツは!?
ヤツは…知性がある!!
超大型巨人や鎧の巨人、とか…
エレンと同じです!!」




誰も聞いてはいないのに、
アルミンは無我夢中で喋り続ける。
頭の中を整理する時には声に出してみるといい、と
教わったのは確かだが、今はそうじゃない。
この平原で1人だけ生き残り、
そして自分を殺そうと追ってくる
巨人の足音を聞いて、
アルミンは気が動転していた。




「巨人の体を纏った人間です!!
だっ…誰が!?何で!?何でこんな!?
まずいよ!!どうしよう!?
僕も死ぬ!!僕も殺される!!」




今まで感じたことのない恐怖がアルミンを襲う。
ガタガタと身体は震え、
喉はカラカラに乾いている。
並走していた予備の馬を手放し、
今はただ逃げることに集中する。

しかし、アルミンに簡単に追い付いた女型の巨人は
彼女の頭上を軽々と跨いだ。




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