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晴れて調査兵団に入団した兵士達は、
明日には兵服が配布され、
所属する班を決められる。


今日から僕も自由の翼を背負う兵士の一人。


何だか実感が沸かず
ふわふわした気持ちのまま、
ミカサと共に兵舎に戻ろうとした時だった。
アルミン、と名を呼ばれ、
弾かれたように振り返ると、
そこには自分を見下ろす
エルヴィンの姿があった。




「………、」




驚いて声も出せずにいると、男はただ笑った。
何事かとミカサがエルヴィンに
視線を向けているが、
彼の瞳は真っ直ぐにアルミンを捉えたままで
動かない。




「君と少し話をしたいのだが、構わないか?」




「も…勿論です!」




「そうか。では、私の部屋へ行こう」




ついてきなさい、と言われれば
断れる筈もなく、
さっさと歩き出したエルヴィンの背を
駆け足で追う。
ミカサは先に戻ってて、と
振り返りながら言えば、
彼女は心配そうな眼差しを此方に向けていた。
調査兵団に入団した自分達は
既にエルヴィンの部下。
彼の言うことは絶対だ。

リーチが違いすぎて、
エルヴィンが歩いていようと
どうしてもアルミンは小走りになる。
広い背中を見上げて息を切らしても
彼は一度も此方を振り返らない。
風を切るように堂々と歩く。
その背に自由の翼と
兵士達の命を背負って。

暫く無言のまま進み、漸く彼は立ち止まった。
調査兵団本部の一階、突き当たりの部屋が
どうやらエルヴィンの私室のようだ。
ポケットから鍵を取り出し扉を開けると
「どうぞ?」と言って
アルミンを先に通してくれた。




「し、失礼します!」




緊張で声が裏返りそうになりながらも
アルミンはそう言って
エルヴィンの私室に足を踏み入れた。


エルヴィンはやめたほうがいいよ、という
ハンジから受けた忠告のことを
アルミンはこの時すっかり忘れていた。





◇◆◇◆◇◆





エルヴィンの私室は閑散としていた。
夕暮れ時でオレンジ色に染まった部屋の中には
大量の本が敷き詰められた本棚とテーブル、
そして向い合わせのソファーが2つ。
部屋の片隅には綺麗に整えられた寝台がある。
棚の中にはいくつかの茶器があり、
エルヴィンはアルミンをソファーに座るように促し
紅茶を淹れてくれた。

ピンと姿勢を正し、
身動ぎ一つしないアルミンを見て苦笑し
「楽にしていい」と声を掛ければ
彼女は弱々しく返事をし、ふーっと息を吐いた。

エルヴィンは彼女の向かいのソファーに腰掛け、
足の間で手を組んだ。
そしてやはりその強い瞳を
真っ直ぐにアルミンに注ぐ。




「ハンジが随分君を気に入ってるんだ」




「…ハンジさんが…?」




「ああ。君を自分の班に入れたがっている。
兵士の割り振りを決めるのも私の仕事だが…
残念だが、その要望には答えられない」



カップを手に、紅茶を口に含みながら
エルヴィンは静かに語る。
折角団長に淹れてもらったのだから
一口でも口にいれないと
失礼に当たるとは思うのだが、
アルミンの体は石のように動かない。




「リヴァイ班やハンジ班は少数精鋭の班なんだ。
従って新兵は入れられない。
…あぁ、エレンは例外だが」




「は、はい!理解してます!」




「ハンジとは話しやすいだろう?
あれは気持ち悪いくらい頭が働くからね。
ここだけの話、次期団長候補だ」




…まずいぞ、内容が入ってこない。
2人きりで団長と話をしているなんて。
何だこの状況は。
考えれば考えるほど緊張してしまう。
平静を装って相槌を打ちながらも、
アルミンは混乱していた。
だめだ、その目に見つめられては。
息も出来ない。




「…アルミン?」




首を傾げるエルヴィンを見て、
はいっ、と反射的に返事をすれば、
彼は困ったように笑う。
漸く血の通った人間らしい表情を見せてくれた。




「困ったな…そんなに緊張されては、
ゆっくり話も出来ない」




「あ、す、すみません!!
団長に見られていると思うと…
その、恥ずかしくて…」




手櫛で髪を整えながら、
伏し目がちにおずおずとアルミンは呟く。
唇は荒れていないか。
肌はかさついていないか。
髪は乱れていないか。
こんなことになるなら、トイレに行って
ちゃんと鏡を見ておくべきだった。

部屋の中に静寂が訪れ、アルミンは更に縮こまる。


会話が途切れてしまった。
僕が、変なことを言ったからだ。
自分の発言を後悔していると
不意にふわりとソファーが沈む。








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