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被験体の巨人2体が殺害されるという
事件に見舞われたが、
予定通り新兵勧誘式は行われた。
訓練兵は整列し、壇上正面に倣う。
調査兵団団長であるエルヴィンが現れた時、
アルミンの心臓は大きな音を立てた。



「所属兵団を選択する本日、
私が諸君らに話すのは
やはり調査兵団の勧誘に他ならない」




勧誘演説が始まり、エルヴィンは
第一に巨人の恐ろしさを語った。
今回の巨人の襲撃により、
ここに集まった者は訓練兵でありながら
多大な犠牲を払ったことを、
まるで記憶を呼び覚ますかのように語る。
それにより顔を青くさせ口許を抑える兵士も
数人見受けられた。




「…しかしだ。
今回の襲撃で失った物は大きいが、
これまでにない程人類は勝利へと前進した。
それは周知の通り、
エレン・イェーガーの存在だ」





エレンの名前が出た時、
隣に立っているミカサが
ピクリと反応を示した。



(エレン…。リヴァイ班の一員として
既に調査兵団に入団してるけど…大丈夫かな)




旧調査兵団本部は、
ここから馬で約一時間程はかかる。
慣れない土地で、
慣れない人達と生活を共にして
きっと疲れているだろう。
おまけに、その巨人化能力のせいで
エレンに差別的な目を向ける輩も増えている。
恐らく、精神状態はボロボロの筈だ。




(でも…リヴァイ兵長が居るなら大丈夫かな)




馬車の中で散々、
ハンジがリヴァイの話をしてくれたおかげで、
彼が信頼に足る人物だということは
解っている。
アルミンは彼のことを何も知らないのに、
何故か知っているような気になってしまう程、
ハンジの話は聞きやすくて面白くて
そして、少し泣けた。話上手なのだろう。

リヴァイ班の掃除の鉄則の話を思い出し、
吹き出しそうになった時、
エルヴィンの言葉がアルミンを現実に引き戻す。




「そして彼の生家がある
シガンシナ区の地下室には、
誰も知らない巨人の謎があるとされている」




「………!」




"俺んちの地下室!!そこに行けば
全てわかるって親父が言ってたんだ!!"



確かにエレンはそう言っていた。
あの時、巨人化して榴弾から守ってくれた時に。
でも、何故それを今ここで発表するのか、
アルミンには解らなかった。
愕然と壇上のエルヴィンを見つめるが、
彼は更に兵士達を煽るようなことを言っている。




(いくら兵士を集めたいからって、
その情報まで公にするか…!?)




解せない。


眉を寄せるアルミンに気付く筈もなく、
エルヴィンは淡々と語り続ける。
その青い炎のような瞳が、
訓練兵一人一人の顔を映していく。
何かを探るように。




(……絶対、何か意図がある……!
団長は、何を…見ようとしてるんだ!?)




息を呑むアルミンには気付かず、
ミカサはじっとエルヴィンの演説に
耳を傾けている。




「調査兵団は常に人材を求めている。
毎回多数の死者が出ることによって
慢性的に人員が不足している」



包み隠さずエルヴィンは言う。
新兵が最初の壁外調査で死亡する確率は約5割。
そして今期の新兵調査兵も
一月後の壁外調査に参加してもらう。
つまり一ヶ月後、
調査兵団に入団した104期調査兵の半数が死ぬ。
血の気が引いていく訓練兵達に、
エルヴィンは最後にこう締め括る。




「この惨状を知った上で
自分の命を賭してもやるという者は
この場に残ってくれ。
自分に聞いてみてくれ…
人類のために心臓を捧げることが出来るのかを」




ーーー…以上だ。
他の兵団の志願者は解散したまえ。



エルヴィンがそう言った瞬間、
多くの訓練兵達が足早に退出していく。
すれ違う兵士達の顔は皆、死人のようだった。
死にたくないからこの場を離れていくというのに。


立ち尽くしているのは極僅かだ。
アルミンとミカサは動かない。
恐怖で動けない訳ではない。
自らの意思で此処に立っている。

考えを変えず憲兵団を志望するアニは、
すれ違い様に「じゃあね」と声を掛けてくれた。
彼女らしい、あっさりとした挨拶を聞き
アルミンの瞳には涙が滲む。
3年間、常に一緒に行動していた
アニが行ってしまう。寂しいけれど、仕方ない。
一緒に調査兵団になろうなんて言えないし
憲兵団には入れない。




数分後には、辺りは静まり返っていた。
残ったのは21名。
アルミンとミカサの他に、ジャン、コニー
恐怖で泣いているサシャ、
クリスタとユミル、
ライナーとベルトルトの姿もある。


随分と数が減った訓練兵達の顔を記憶するように
エルヴィンは一人一人の姿を目に焼き付ける。

これから自分の部下として、手足として
戦ってくれる兵士達の姿を。




「…君達は、死ねと言われたら死ねるのか?」




少しの間を置いてから、
死にたくありません、と答えたのは
ジャンである。


その素直な返答を聞き、
それまで固い表情をしていたエルヴィンが、
柔らかく微笑んだ。




「そうか…皆いい表情だ。
よく恐怖に堪えてくれた…君達は勇敢な兵士だ。
心より尊敬する」




嘘偽りのない気持ちを吐露し、
これが本当の敬礼だ、とエルヴィンは
左胸に右手を当てる。


ーーー心臓を捧げよ。




今この瞬間、此処に残った兵士達の心臓は
自らの左胸を離れ、公に捧げられた。




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