3


エルヴィンが考案した演出のおかげで
エレンの身柄は一時的に調査兵団に託された。
しかし一ヶ月後の壁外調査の結果次第では
再び此処に戻ることになる。


控え室に運ばれたエレンは椅子に座らされ
傷の手当てを受けている。
そこで初めて詳しい説明を受け、
漸く現状を把握することができた。
ミカサはエレンの隣に張り付いて動かない。
ハンジは自動的に修復する
エレンの身体に興味津々といった様子。




(とりあえずは、よかった…)




エレンの身柄が
もし憲兵団に引き渡されることになっていたら
冗談抜きに解剖されていたかもしれない。
いやいや解剖されるだけではなく、
公開処刑になっていたかも。
ホッと安堵の溜め息を吐くアルミンの横顔を
リヴァイは無言で眺めている。
綺麗な顔と髪だ。
見ていて飽きない。




(15か…)




兵士に年齢は関係ないという
ピクシスの意見には同意だが、
流石に10代の女を相手にしたことはない
リヴァイは、
どうやって彼女との距離を縮めようか
思案していた。




(俺の班に入れるか?)




いや、待て待て。
流石にそこまで公私混同は出来ない。
即座にその考えを拭い去り、
何か良い案はないか眉間に皺を寄せていると
部屋の隅に立っているミケが鼻で笑った。




「…あ?」




バカにしたようなその態度に
カチンときたリヴァイが彼を睨み付けると
ミケはやれやれと肩をすくませる。
そんな2人のやり取りに
気付いているのかいないのか、
ハンジがくるりと此方を振り返った。




「そういえばさー、2人は所属兵科
何にするか決まってんのー?
あ、ミカサは聞くまでもないかー!」



アルミンは?やっぱりウチだよね?
エレンも居るしねぇ?と
圧力をかけてくるハンジに苦笑しつつも
アルミンは頷いてみせる。
調査兵団になるために兵士になったのだから、
それ以外の選択肢はない。
彼女の返答を聞き、
よっしゃあ!とガッツポーズをとり、
ハンジはすくっと立ち上がる。




「エルヴィン、アルミンは私の班に入れてよ!
ほら、頭良い子は優先的にウチに回してって
いつも言ってるじゃん!」




「…ハンジ。そういう話は
正式に入団が決まってからにしてくれ」




苦笑してそう言ったエルヴィンは
懐中時計をチラリと見て立ち上がる。
団長という立場もあり
予定が立て込んでいるのだろう。




「すまないが、私はこれで失礼するよ。
司令と話がある。リヴァイ、エレンを頼んだよ」



「…了解だ」




通り過がりにアルミンと視線を合わせて微笑み、
エルヴィンは慌ただしく部屋を出ていった。
エルヴィンと一瞬目が合っただけで
顔を真っ赤にさせているアルミンに気付き、
リヴァイは舌打ちをし
徐にエレンの左隣に腰を下ろす。



「!!」



ビクッと身体を震わせるエレンは
リヴァイに恐怖心を抱いてしまったらしく
頻りに目を泳がせている。
そんな彼の右隣で、ミカサは
人を殺せそうな目でリヴァイを睨んでいた。




「なぁエレン」



「は…はいっ!?」



「俺を憎んでいるか?」




めめめめ滅相もございません!と
ピンと背筋を伸ばし、涙目で答えるエレンを見て
アルミンは心底同情する。
いくら傷が自然治癒するとはいえ、
蹴られれば痛いし、
植え付けられた恐怖心は消えないのだから。




「必要な演出として理解してますっ!」



「ならよかった。
もう手当ては済んだろう、すぐに出発だ」




「え…何処へ、行くんですか…?」




ポカンとするエレンの金目は
リヴァイが見つめると反射的に逸らされる。
目を合わせるのが怖いようだ。
人間としては当然の反応なので、
特に気にすることもなく
リヴァイは質問に答えてやる。




「お前を囲っておくのに最適な物件がある」




リヴァイの言う物件とは
旧調査兵団本部のことである。
それは古城を改装した施設で、
壁と川から離れた場所にある。
地下室もあり、
まだ巨人の力を掌握出来ていないエレンを
寝泊まりさせるにはうってつけだと判断した。
次の壁外調査まで、
リヴァイ率いる特別作戦班は
旧調査兵団本部で生活するように
指示を受けている。
多くは語らずに立ち上がるリヴァイの背中を見て、
戸惑いながらもエレンは彼の後を追う。



「エレン、」




心配そうに名前を呼ぶミカサを
大丈夫、と宥めるのはハンジの役目だ。
不安を隠せずに振り返れば、
アルミンがぎこちない笑顔で手を振ってくれた。




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