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頭1つ分は下にあるアルミンの旋毛を見下ろして
ミカサは呆然とする。
自分を守るように立つ彼女の背中は
相変わらず小さくて頼りない。
それでも、彼女が放つ気迫は
時に驚くべき力を発揮する。




「そうやって自分に都合の良い憶測ばかりで
話を進めたって、現実と乖離するだけで
ろくなことにはならない」



ハッキリとした口調でそう言ってのける少女に
保守派の男は一歩後退りした。
なんだあの子は、と一斉に注目を浴びる
アルミンを名を呼ぶことで制したのは、
中央でひざまずいているエレンであった。

一瞬にして静まり返る法廷。
今にも巨人化すると危惧しているのか?
馬鹿馬鹿しい。

ピンと張り詰めた空気の中、
彼は怒りを露にした表情で
苦々しげに言葉を放つ。




「確かに俺は化け物かもしれませんが…
ミカサは関係ありません」




「…エレン、」




「無関係です!」




大切な家族の一員であるミカサを
侮蔑の対象として扱われ、
エレンの怒りは沸点を超えていた。
今なら感情に任せて何でも言える。




「大体あなた方は…巨人を見たこともないくせに
何がそんなに怖いんですか?」




思っていることを全部言ってやる。
ドクドクと鳴る鼓動の音に後押しされ、
エレンの口からは素直な感情が
するすると流れ出る。




「力を持ってる人が
戦わなくてどうするんですか…
生きるために戦うのが怖いって言うなら
力を貸してくださいよ」




ここに居るのはミカサを傷つけた野郎共だ。
人間じゃない。




「この…腰抜け共め…!!」




ミカサを傷つけた。
あの時の強盗と同類だ。




「…いいから黙って、全部俺に投資しろ!!」





思っていることを全て吐き出した、次の瞬間
エレンの左頬に激痛が走る。
体は鎖で繋がれていて
吹き飛ばされることはなかったが、
この拘束具がなかったら確実に
壁に激突していただろう。
何かが視界を横切ったと思ったら、
それは自分の歯だった。




(え…?俺の歯……?)




何が起きたのか理解出来ないまま、
次は腹に衝撃が走る。




「ぐふっ!!」




胃液が口から溢れ、
激しい嘔吐感に見舞われるが
それすらも許さないとばかりに
今度は顔面を蹴られる。
鼻の骨が折れたらしく、嫌な音と共に
鼻血が吹き出した。




「っ!!」




目の前で繰り広げられる一方的な暴行に、
ミカサは瞬時に駆け寄ろうとしたが
それを止めたのはアルミンだった。




「ミカサ!!待って!!」




「なぜ…!!」




「待って、落ち着いて!!頼む!!」




落ち着いて、と声をかけてくる
アルミンの方が恐怖にうち震えている。
顔面蒼白で、ミカサの手首を掴む掌は
冷たく汗ばんでいた。
それを見て僅かに冷静さを取り戻し、
ミカサは足を止める。
演出だ、と口パクでアルミンが言ったのを見て
ハッと顔を上げれば、
エルヴィンら調査兵団の面々は
エレンを蹴り続けるリヴァイを止めることなく
無表情で傍観している。


リヴァイが漸く動きを止めた頃には
エレンは瀕死の状態で俯せに倒れていた。




「これは持論だが…
躾に一番効くのは痛みだと思う。
今お前に一番必要なのは、
言葉による『教育』ではなく『教訓』だ」




「…ま、待てリヴァイ!」




憧れていたリヴァイ兵士長に
暴力を奮われていると理解したエレンは
無意識に敵意のある目をリヴァイに向ける。
それに気付いたのはリヴァイではなく、
何も出来ずに2人を眺めていることしかできない
ナイルだった。




「何だ…」




忌々しげに問いかければ、
危険だ、と頼りない一言が返ってきたので
リヴァイはそれを鼻で笑い飛ばす。




「何言ってる…
お前らはこいつを解剖するんだろ?」




「「………」」




反論する言葉もなく
口をぽっかりと開けた間抜けな顔で
黙り込む憲兵団の面々を眺め、
それまで黙りを決め込んでいたエルヴィンが
遂に口を開く。




「総統…ご提案があります」








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